新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

英国人20名を殺害せよ

 2009年発表の本書は、SAS出身の覆面作家クリス・ライアンの軍事スリラー。これまで「テロ資金根絶作戦」「暗殺工作員ウォッチマン」などを紹介している。作者自身湾岸戦争で狙撃手として活躍、ミリタリー・メダルを送られている。同じく覆面作家アンディ・マクナブは、戦闘小隊の同僚だった。

 

 今回の主人公も、SAS航空小隊のサム・レッドマン軍曹。父親のマックスも兄のジェイコブもSAS隊員という家系。6年前、イラクでの作戦中ジェイコブが行方不明になった。心の傷は大きかったが、サムはSASでの任務を黙々と続けている。アフガニスタンの激戦から戻ったサムのチームは、直ぐに新しい任務を受ける。カザフスタンの奥地にいる英国人20名を抹殺せよというのだ。

 

        

 

 彼らは訓練キャンプで、テロリストを養成しているという。ターゲットの写真の中に、サムはジェイコブの顔を見つけて動揺する。一方英国内では「赤信号突破者:Red Light Runner」と名乗る無軌道な若者が増え、それをMI5がリクルートしているとの情報がサムにもたらされる。

 

 サムたち8名のSAS隊員は、カザフの訓練キャンプを急襲。4名のスペツナズが抵抗したが、これを排除し殺戮は成功した。しかしジェイコブは逃走し、SAS側にも1名の犠牲者が出た。帰国したサムは、RLRに所属すると思われる2名の若者が事故死した件を友人の警官から聞き、何かの勢力が動いていると感じる。浮かび上がったのは、長くロンドンに居住しているロシア人の大学教授。

 

 SASスペツナズの戦闘シーンの他、SAS流の行動様式・拷問術などぞっとさせるエピソードが満載の本書。作者の筆はそのように非情な行動を、淡々と描いていく。この抑えた筆致が、リアリティを高めている。

 

 500ページあまりの大作ですが、スピーディな展開で、すぐに読めてしまいました。血なまぐさい話なのですがね。