新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

効能伝説・俗説を斬る

 本書(2016年発表)は、農学畑から協和発酵サントネージュワイン研究所などを経て、フード&ビバレッジ東京代表を務める清水健一氏が、ワインの伝説・俗説を科学者の視点から検証したもの。

 

 著者はお酒大好き人種でもあり、「3人でワイン8本空けた」などの武勇伝も持つ。冒頭、昨今人気は高まっているものの、日本人は成人一人当たり年間3本しかワインを呑んでいないと嘆き半分に紹介している。当家は家内と2人で年間120本は最低呑んでいるから、ちょっと驚いた。

 

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 本書では多くの伝説・俗説を取り上げ、

 

・ワインは呑み切り不要、他のお酒に比べ日持ちするので、冷蔵庫で数日はOK

・コルク栓がいいとは限らない。フレッシュなワインならスクリューで十分

・ヴィンテージワインでもデカンタする必要はない。ただ呑む1時間前には開栓する方がいい

・ワイン中の酸化防止剤「亜硫酸」が、体に悪いという根拠は全くない

・赤ワインの「ボディ感」、白ワインの「ミネラル感」に特定の基準はない

・日本人はアルコール代謝が早く、アセトアルデヒドの分解が遅いから2日酔いになりやすい

・欧米人は代謝が遅いので2日酔いにはならないが、アルコールが長く体内に残るのでアル中になりやすい

・白ワインの殺菌力は強く、生牡蠣を白ワインで呑むのは食中毒防止が目的。風味が合うからではない

 

 などと科学的根拠(時には化学式)を示して論じている。さて、肝心の健康に寄与するワインの効能だが、ワインには上記殺菌能力の他、多くの成分が入っていて、

 

・縮合性タンニンやアントシアニン

 認知症予防、冠状動脈性心臓病予防、ガンの拡大遅延のほか、抗酸化作用が特に赤ワインで強く、多くの生活習慣病予防に役立つ。アントシアニンは眼精疲労にも効く。

 

カリウム

 過剰な有害ナトリウムを排除し、痛風予防に役立つ。

 

レスベラトロール

 乳がんの予防。アンチエイジング効果もあると言われる。

 

・リンゴ酸、酒石酸、乳酸

 胃の中のピロリ菌の除去。

 

 本筋ではないが、テイスティングについてのコメントが参考になった。ワインにつきもののコルクは、数百本に1本くらい「コルク臭」を付ける可能性があり、テイスティングはこれをチェックするためのものとある。決して「濡れた子犬のような・・・」などと、ソムリエにうんちくを垂れるシーンではないということでした。

このテープは自動的に消滅する

 僕が中学生の頃、大好きで毎週見ていたのがこの番組「Mission Impossible」。邦題は「スパイ大作戦」というのだが、この題名は好きでなかった。後にトム・クルーズ主演でシリーズ映画になるが、僕はオリジナルの方がずっと好きだ。先日伊勢佐木町のBook-offで見つけて、「NCIS」以外のDVDとしては初めて買った。

 

 米国では1966年から7シーズンに渡って放映されたのだが、僕が日本で見たのはシーズン2~5だったように思う。中でもこの5人のチームだったシーズン2と3がいい。

 

ジム・フェルプス 冷静沈着なリーダー

ローラン・ハンド 変装・声色・手品が得意な俳優

シナモン・カーター 元モデル、看護師でもあり「お色気」担当

バーニー・コリアー 電子・機械工学のエキスパート

ウイリー・アーミテージ 元重量挙げチャンピオン、怪力の持ち主

 

 今回手に入ったのは、シーズン3の全25話。冷戦期であり、鉄のカーテンの向こう側からアフリカのジャングルまで、世界を股にかけた「欺瞞作戦」が行われる。米国内でも、マフィアの資金源を潰したりシンジケートの親玉を罠にかける。

 

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 「おはようフェルプス君」で始まるテープ(オープンリールである!)の指示で、エキスパートたちは決死の作戦を実行する。冒頭ターゲットとなっている悪役の所業が紹介され「悪い奴だな~」と思うのだが、巧妙極まりない二重三重の罠に悪役がはまっていくのを見ていると、なんだか可哀そうになってくることもある。

 

 実行不可能な指令のオープニングと、罠にはまって唖然とする悪役の脇を5人が涼しい顔で通り過ぎるシーンが毎回登場する。ワンパターンではあるが、実に爽快である。見ていないのだが第一シーズンはジム役のピーター・グレーブスではないリーダーがチームを率いていた。またシーズン3でローラン役のマーティン・ランドーとシナモン役のバーバラ・ベイン(この2人夫婦でもある)が退き、レナード・ニモイが入ってくる。ニモイは「Star Trek」のスポック副長役はいいのだが、ここではランドーの方が良かった。

 

 このDVDを買えたおかげで、50年ぶりに出会えた5人組に、とても感動した。当時は正方形に近い画面だったねとか、ダイヤル式の電話などの小道具にやたら郷愁を感じてしまった。この時代の本編は約50分、昨今は42分くらいですから、CM時間がそれだけ伸びたのでしょうね。

不滅の内政・外交教本

 「小さな政府」を標榜して、レーガンサッチャー改革、日本では評判の悪い小泉・竹中改革を支持しておられるのが塩野七生さん。これまでにも何冊か著書を紹介しているが、本書は中世フィレンツェの政治家ニッコロ・マキャベリの遺した言葉を、著者の感性でピックアップしたもの。マキャベリの代表作と言われるのが「君主論」と「政略論」だが、もちろんこれらの完訳日本語版は出版されている。しかし著者はそのエッセンスを、この薄い文庫本に収めてくれた。

 

 イタリア半島の内陸に位置し、山がちで決して豊かではなかった都市国家フィレンツェ。そこに300年続く繁栄をもたらしたのは、マキャベリの内政・外交(&軍事)政策だと言われる。本書の冒頭「マキャベリの生きた証を書くこと」と著者は言い、その遺した文書を読むだけで多くの知見が得られると本書の意義を説明している。

 

 「君主論」の中でマキャベリは「君主の敵は内外にあり。これを防ぐには防衛力と友好関係だ」と述べている。国家については、自らの安全を自ら守る意志と力を持たないものは滅びると断言している。憲法9条盲信派の人達に、ぜひ聞いてほしい言葉だ。

 

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 新興国の君主がなすべきことも列挙されていて、これは現在に至るも色あせない真実である。例えば、

 

・敵から身を護る方策を建てる

・味方を獲得しネットワークを張る

・策略に拠ろうが力に拠ろうが、まず勝つこと

・民衆からは愛されると同時に怖れられること

・厳格であると同時に、丁重・寛大・鷹揚であること

・旧体制を新しい方法で変革すること

 

 など、軍事に限らず「COVID-19」禍への対応にも応用できそうな教訓だ。

 

 本書は、君主編・国家編・人間編の3部構成で、人間編では友人の選び方や人間の力量の見分け方まで紹介してくれる。軍隊の力量も同様に図ることができ、

 

将兵の戦力は、数よりも戦意にかかる

・あまりにもあっけなく勝利した軍は勝ちにおごる

・まず敵軍の弱い部分から叩く

・なるべく多くの将軍の意見は聞くべきだが、決定事項は限定メンバにしか知らせない

 

 など軍隊の運営についてまで、アドバイスをしてくれている。中にはスペインへ外交官として赴任する友人にあてた手紙で、外交官の心得・本国へのレポートの仕方なども丁寧に記述してある。

 

 これは一般企業でも十分に役に立つ不滅の内政・外交教本ですね。本書は常に手元に置いて、参照するようにします。

記念すべきクイーン父子登場作

 本書は(S・S・ヴァン・ダインはいたものの)米国ミステリー界を大きく飛躍させる新世代を拓いた1冊である。1929年、いとこ同士で24歳だった2人が共著したもので、ある雑誌の懸賞に応募し当選したもの。雑誌は廃刊になってしまったが、単行本として陽の目を見ている。

 

 フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという二人は、作中の探偵(推理作家でもある)の名前と同じエラリー・クイーンという筆名に隠れて、しばらくは本名を明かさなかった。後にバーナビー・ロス名義で「悲劇シリーズ」を書いているが、クイーンとロスが同一(同二か?)人物であることは、長く秘匿されている。

 

 本書について批評家は「ヴァン・ダインの手法を踏襲しながら、度が過ぎたペダンティックさはなく、読みやすい本格ミステリー」と称賛した。演繹的で華麗な推理と地道な警察活動の融合は、犯罪者や容疑者の内面についての掘り下げが少ないという批判があっても、多くの読者を惹きつけることになる。

 

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 ニューヨークのローマ劇場では、大当たりの芝居「ピストル騒動」の興行が続いていた。その第二幕の最中に、弁護士モンティ・フィールドが毒殺された。被害者に息があるうちに事件が発覚、現場の警官が直ちに劇場を封鎖したことで、容疑者は観客と劇場関係者に絞られることになる。

 

 大当たりの芝居なのに、被害者の指定席周辺7席が(切符は売られていたが)空席だったことで、犯人か被害者のどちらかが秘密の会合を持とうとしていたことがわかる。そして夜会服姿の被害者の周辺には、付き物のシルクハットがなかった。現場指揮官のクイーン警視に呼び出された息子のエラリーは、シルクハットがないことから大胆な推理を展開する。

 

 デビュー作の時点では、経験豊かな捜査官クイーン警視と、推理力・想像力豊かな息子のエラリーという2人をコンビとして平等に扱っている。現に謎解きも探偵が関係者を集めて大団円を演じるのではなく、犯人逮捕後のクイーン警視が地方検事サンプスンらに(エラリーの推理とそれを裏付ける捜査)を説明する形で行われる。エラリーはメーン州の森に出かけていて、犯人逮捕や謎解きには参加していない。

 

 「Xの悲劇」で始まった僕のミステリーマニア行、中学生の時に決定づけたのはこの「国名シリーズ」でした。50年ぶりの再会、懐かしかったです。

赤ん坊殺しと100万ドルのブツ

 1989年、本書の発表でエド・マクベインの87分署シリーズは41作目になった。本書の帯によると、マクベインがこのころ初来日しているらしい。1956年「警官嫌い」で始まったシリーズは34年続いているわけだ。刑事たちはほとんど年を取らないし、昇進もしない。キャレラ刑事はずっと二級刑事、クリング刑事は三級刑事だ。そう、上司のバーンズ警部もずっと警部のままだ。ただ時代背景は変っていて、本書では登場人物の一人が「レーガン海兵隊員を見殺しにした」などと言っている。

 

 本書のタイトル「ララバイ」は子守唄の事で、事件は大みそかの夜(正確には元旦の未明)にパーテイに出かけて帰ったホッディング夫妻の家で、ベビーシッターのアニーが刺殺され生後6ヵ月赤ん坊が窒息死させられていたことから始まる。担当するのはキャレラ刑事とマイヤー刑事だが、同日同じマンションで起きた空き巣事件を担当するウィリス刑事も本件に絡んでくる。

 

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 アニーには性交の跡があり、レイプ殺人の可能性もあった。しかし無抵抗な赤ん坊を殺すという手口に、刑事たちもメディアも怒りを覚えている。そのころクリング刑事は、街中で3人のジャマイカ系黒人3人に殴られていたプエルトリコ人ホセを助ける。黒人たちは正体を見せないので「スモーク」とあだ名される男、ハミルトンが率いる自警団のメンバーだった。この自警団は売春・銃器密輸・マネロンなどあらゆる犯罪をしてシノギを得ている。その中でも大きいのが麻薬の密輸・密売だ。

 

 ホセは、なぜ3人に襲われたのかを恩人のクリングにも話さない。それは彼自身が麻薬(ブツ)の運び屋だったから。彼らは近々入港するフネで、100万ドル相当のブツを運び込もうとしていたのだ。麻薬を追うクリングと、以前クリングと付き合っていたおとり捜査官アイリーンの苦悩、それにキャレラたちの捜査が並行して描かれる。

 

 架空都市アイソラには、最近中国系ギャングも入り込んできていて、イタリア・メキシコ・カリブ海系と覇を競っている。特に売春ではラリった中国娘を無尽蔵に呼び寄せられるので、優位は動かない。そんな暗黒街のどろどろした風景を描いても、最後はちゃんと「意外な結末」に持って行ってくれるのが87分署もの。

 

 このシリーズも在庫は少なくなりました。大事に読まないといけませんね。