新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Smart City より WISE City

 本書は、東急電鉄執行役員・都市創造本部運営事業部長である東浦亮典氏が、これからの鉄道会社の在り方を示したもの。2018年の時点で(「COVID-19」を予測したわけではなかろうが)場所に囚われない、都心でなくてもいい働き方を提案している。題名の「私鉄3.0」とは、

 

◇私鉄1.0

 阪急の小林一三が考えた、鉄道の都心側に百貨店を置き、郊外側に観光施設を置く。沿線住民は通勤・買い物で都心に向かい、レジャーで郊外に向かうモデル。

 

◇私鉄2.0

 都心や郊外を含めた沿線に職住接近の環境を造り、都心へは業務・商業・住宅のために、郊外へはその再生や生活サービスのために移動するモデル。

 

◆私鉄3.0

 職住接近、都心や郊外への移動は2.0と同じだが、いずれも鉄道・バスに限らず、MaaS(Mobility as a Service)で移動をサポートするモデル。

 

 だと説明している。近年議論されている「Smart City」と言う概念に筆者は否定的で、「WISE City」であるべきだという。前者は新しい技術で街のすべてを制御するように思える。後者はあくまで住民を中心に据え、

 

W:健康で、歩いて暮らせて、働きやすい

I:知恵がありICTが便利

S:スマートで満足できて安全

E:エネルギー、エコロジー、エコノミー

 

 を並び立たせるものでなくてはならないという。

 

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 鉄道会社は、鉄道だけを運営しているわけではない。それは鉄道だけでは需要を作れないから。1.0のように商業施設や観光施設を含めて、沿線全体を「開発」しなくてはビジネスにならない。しかしともすると「開発」が終わったら売り逃げとなりかねない。やはり沿線のすべてを「運営」できなくては、長続きしないのだ。沿線各地の特徴に合わせた開発と運営の例を、筆者は東急という企業の歴史を振り返りながら紹介する。

 

・大規模な「面」で開発した田園都市

・すり鉢の底に私鉄が集まってきた渋谷

・猥雑さが残り開発余地の大きい自由が丘

規制緩和で一気に高層化した武蔵小杉

 

 などだ。これからは、五反田・目黒・大井町に注目しているともある。東急沿線には僕も短い間だが縁があり、本書に紹介されている街には自分なりのイメージがありました。それを再認識させてくれた、都市開発の参考書でした。