新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

華麗な芸術一家の闇

 1995年発表の本書は、2ヵ月連続で紹介してきたデボラ・クロンビーの<ダンカン&ジェマもの>の第三作。ロンドン警視庁のエリート警視ダンカン・キンケイドと部下でシングルマザーのジェマ・ジェイムズ巡査部長が活躍するものだ。ダンカンは警視という役職にしては若く、スマート。ジェマとはバツイチ同士で気が合うのだが、恋愛関係に至るかどうか読者の気を揉ませる展開である。

 

 今回の事件は、ロンドンから50kmほど離れた街ハイウィカムで、喉にあざのある水死体が発見されたもの。池に落ちた事故死か、首を絞められて池に放り込まれた他殺かが分からない。ただ死者が高名な芸術一家の娘婿で、当主のジェラルドが警視監の友人だったことから、ダンカンたちは地元警察への協力を命じられたのだ。

 

        

 

 ジェラルドは現役の偉大な指揮者、妻のキャロラインは<デイム>の称号を持つオペラ歌手、一人娘のジュリアは(油絵より難しい)水彩画家だ。もうひとり天才的な仮称能力を持った息子マシューがいたが、12歳の時ジュリアの目の前で水死している。

 

 ジュリアは弟に続いて、夫コナーも溺死という形で失ったことになる。しかしダンカンたちが捜査を進めると、ジュリアもコナーも個別に愛人を持ち、夫婦仲は冷え切っていたことが分かる。2人は個別に関係者とパブで語り合うなど、噂を集める。

 

 そもそもジュリアがコナーを結婚相手に選んだのが間違いだという意見が多く、見栄えするだけで中身のないコナーは結婚早々から一家に疎まれていたらしい。いずれも離婚歴のあるダンカンとジェマは、あまり考えたくなかった「結婚と破局」ということを捜査過程で突き付けられ、2人の関係もぎくしゃくしてくる。

 

 事件の謎と捜査の展開もさることながら、ダンカンとジェマの物語は、なかなか読者をひきつけます。このシリーズもっと探してみましょう。