新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

赤ん坊殺しと100万ドルのブツ

 1989年、本書の発表でエド・マクベインの87分署シリーズは41作目になった。本書の帯によると、マクベインがこのころ初来日しているらしい。1956年「警官嫌い」で始まったシリーズは34年続いているわけだ。刑事たちはほとんど年を取らないし、昇進もしない。キャレラ刑事はずっと二級刑事、クリング刑事は三級刑事だ。そう、上司のバーンズ警部もずっと警部のままだ。ただ時代背景は変っていて、本書では登場人物の一人が「レーガン海兵隊員を見殺しにした」などと言っている。

 

 本書のタイトル「ララバイ」は子守唄の事で、事件は大みそかの夜(正確には元旦の未明)にパーテイに出かけて帰ったホッディング夫妻の家で、ベビーシッターのアニーが刺殺され生後6ヵ月赤ん坊が窒息死させられていたことから始まる。担当するのはキャレラ刑事とマイヤー刑事だが、同日同じマンションで起きた空き巣事件を担当するウィリス刑事も本件に絡んでくる。

 

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 アニーには性交の跡があり、レイプ殺人の可能性もあった。しかし無抵抗な赤ん坊を殺すという手口に、刑事たちもメディアも怒りを覚えている。そのころクリング刑事は、街中で3人のジャマイカ系黒人3人に殴られていたプエルトリコ人ホセを助ける。黒人たちは正体を見せないので「スモーク」とあだ名される男、ハミルトンが率いる自警団のメンバーだった。この自警団は売春・銃器密輸・マネロンなどあらゆる犯罪をしてシノギを得ている。その中でも大きいのが麻薬の密輸・密売だ。

 

 ホセは、なぜ3人に襲われたのかを恩人のクリングにも話さない。それは彼自身が麻薬(ブツ)の運び屋だったから。彼らは近々入港するフネで、100万ドル相当のブツを運び込もうとしていたのだ。麻薬を追うクリングと、以前クリングと付き合っていたおとり捜査官アイリーンの苦悩、それにキャレラたちの捜査が並行して描かれる。

 

 架空都市アイソラには、最近中国系ギャングも入り込んできていて、イタリア・メキシコ・カリブ海系と覇を競っている。特に売春ではラリった中国娘を無尽蔵に呼び寄せられるので、優位は動かない。そんな暗黒街のどろどろした風景を描いても、最後はちゃんと「意外な結末」に持って行ってくれるのが87分署もの。

 

 このシリーズも在庫は少なくなりました。大事に読まないといけませんね。