新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

国土に働きかけてこその恵み

 本書は、国交省の元技監大石久和氏の「国土論」。東日本大震災の翌年、2012年の発表である。国土庁から道路局長とインフラ行政の裏面を知り尽くした技術者である筆者とは、震災前に知己を得てインフラのデジタリゼーションについて議論させていただいた。震災直後に僕のいた会社が仙台でイベントを開催した時には、僕のパネルにパネリストとして参加していただいた。

 

 口癖は「脆弱な国土に住む日本人は、常に国土に働きかけなくてはいけない」だった。その知見のエッセンスが詰まっているのが本書。技術者らしく、多くの数値と図表を使い、国土の実態と過去の日本人がどのように「国土に働きかけ」てきたかが明示されている。「脆弱」の意味は、

 

        

 

・複雑で歪んだ(複数のプレートが合わさっていること)地形

 ⇒ それゆえ地震や噴火、津波など自然災害が多い

・豪雨、台風が多く、都市の集中する河口は軟弱地盤

 ⇒ 水害が多く、いったん発生すると多くの人命が危うい

・急峻な山岳が多く平地は少ない。しかも膨大な河川で寸断されている

 ⇒ 交通路を拓くにも、橋やトンネルなど多くのコストがかかる

 

 ということ。地震の揺れの指標(全国平均水平震度)を例にとると、

 

・ドイツ 0.0

・フランス 0.03

・米国 0.08

・日本 0.22

 

 とケタが違う。加えて、制度的な課題もある。例えば地籍が確定していない土地が多く、再開発するのに余計な時間がかかること。土地保有者が細分化され過ぎているのも問題だとある。

 

 これからの国土行政への提言としては、

 

・1980年代の「荒廃した米国」を他山の石として、インフラ整備にカネをかけろ

・崩壊しそうな地方にもっと資本を廻し、東京一極集中を逆転させよ

・災害に強い国造りをして、インフラ整備も含めて国際競争力を強化せよ

 

 というもの。この書がしめす種々の数値は、今後も僕が国交省の会合で発言する際の参考とさせてもらいます。