新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

主張の見えにくいレポート

 2021年発表の本書は、朝日新聞の東京本社経済部長の伊藤裕香子氏の税制論。菅内閣が「COVID-19」対策の説明不備などあって、支持率を下げているころの出版である。菅総理の言葉にある「自助・共助・公助」の順番が違うのではないかと、野党が責め立てていることへのコメントから始まる。朝日新聞の投書欄には、

 

・公助を整備して国民を安心させるのが政府の役目

・公が出来る限りのことをするとの決意が伝わってこない

・高所から「まず自助で」と言われても納得できない

 

 などと、菅総理新自由主義的スタンスにあることへの批判があふれたという。筆者自身はそのような主張をせず「この3つの助は、順番ではなく組み合わせ方が重要」と深入りを避けている。以降、主に消費税の導入にいたる論議や引き上げ(例:民主党野田政権時代の三党合意)の経緯を紹介しているが、これらについても特に目新しい主張はない。

 

        

 

 論点は副題にあるように「置き去りの将来世代」への負担をどう和らげるかにあるはずなのだが、読み進んでもなかなかそこにたどり着かない。後半は特別定額給付金のような「全員一律の給付」論の実態レポートになっていく。

 

 安倍内閣では「COVID-19」で生活が苦しくなった人たちに、1世帯30万円の給付を決めようとしていた。しかし公明党などが「全員一律」を主張して、後に愚策を評される給付が成された。

 

 面白い話として、地方選挙でも「一律5万円給付」を掲げた例が示されていた。2020年の岡崎市長選、この公約で現職を破った新市長だが、財政事情から公約は果たせなかった。ポピュリズム政治の暗部と言えよう。

 

 1,000兆円を越える国債を抱え、政権運営は困難を極める。本書は、野田元総理や鈴木北海道知事、翁日本総研理事長、竹中元総務大臣らのインタビューで「税と公助」についての意見を併記して終わる。どうにも主張が見えにくいレポートですが、新聞ってこんなものですか。