新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

もうひとつのプロの世界

 20世紀末、アングロサクソン流の金融が世界を席捲していたころの本「アングロサクソンになれる人が成功する」を前回紹介した。今回は、もうひとつのプロの世界、プロ野球である。よく「契約金x億円」「年俸x億円越え」などと景気のいい数値が、スポーツ新聞の表紙を飾る。

 
 特にメジャーリーグになると、x年契約x百億円などと、想像を絶する金額になる。ある意味アメリカンドリームの典型である。そういう世界で三冠王三回という記録をもつのがこの人、落合博満である。実績がありながら、選手・監督時代を通して多くの批判を浴びてきた人でもある。

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 本書は彼の監督時代を中心に、人材育成はどうあるべきかを記したものである。経営者は引退前に何をし、何を残すか、カネを残すを下策・仕事を残すを中策・人を残すを上策、という。
 
 プロ野球の世界では、チームメイトがまずライバル、蹴落とすべき相手だ。試合に出られるポジションには限りがあり、ライバルが居座れば自分の出番はない。またマウンド/打席に立てば、誰も助けてくれない。1対1の勝負である。そういう世界で生き残っていくためには「野心」が必要だと、本書にある。
 
 いくら技量が優れ体力に恵まれていても、野心なかりせば二流に終わるということらしい。これは経営の世界でも技術屋の世界でも、同じことだと思う。落合選手は、非常にユニークな打者だった。キャンプで左打ちの映像をみたことがあるが、右打席よりうまいのではないかと思えるくらいだ。狭い川崎球場の優位性を活かした打撃で、本来は中距離打者だと思うが、本塁打を量産した。状況を見極めることに敏な、クレバーな選手だ。
 
 トレーニングもユニークで、昼神温泉でプールの中を歩くことでキャンプイン前の体を作った。歩くだけかとの批判もあったが、戦闘のプロ柘植久慶は「これで十分」と評した。しかし口が重いせいで、一般にマスコミのウケは良くなかった。
 
 監督になっても常に優勝を争い、中日ドラゴンズを二度目の日本一にもした。日本シリーズで、8回まで完全試合をしている投手を交代させる「采配」には、批判もあったが動じることはなかった。選手のコンディションを優先して、デーゲームを拒否し続けた。ナイターの翌日デーゲームというのは、体調管理が難しいからだ。しかし、球団としては休日はファンのことを考えてデーゲームを入れたい、そこに確執が生まれて監督を追われることになる。
 
 野球の世界の話ばかりではあるが、企業経営や人材育成に役立つエピソードがちりばめられている。時々読んでみるのもいいでしょう。