新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マッカーシズムのアメリカ

 本書は一作ごとに趣向を変えて読者を楽しませてくれるウィリアム・デアンドリアの第五作。以前紹介したTV業界人マット・コブのシリーズではなく、時代を1951年に設定してマッカーシズム赤狩り)の時代を描いている。

 

 日本人のよく知らない米国の、ある意味暗黒時代である。ソ連をはじめとする共産主義の台頭があって、朝鮮戦争も勃発している。せっかく第二次世界大戦に勝ったというのに、米国は新たな脅威に直面して冷静さを欠いていたようだ。1950年、共和党マッカーシー上院議員が「国務省共産党員が200人以上いる」と爆弾発言をして「赤狩り」の流れが起きた。今でいう「Fake News」である。

 

 多くの人たちが「隠れ共産党員」の疑いを掛けられて、社会的に葬られた。大リーグのシンシナチ・レッズは球団名を一時期変更したとある。本書の背景がそうであったことを知らないと、本書のストーリーは(特に日本人には)分かりにくいものだ。本書を最初に読んだのは大学生のころ、書評の高い本だったのだがあまり印象に残っていない。

 

        f:id:nicky-akira:20200618204545j:plain

 

 このころの米国は二人の"M"に象徴されるという。ひとりは当然マッカーシー議員だが、もうひとりはNYヤンキースミッキー・マントルである。右投げ両打ちの外野手、1956年には打率.353、52本塁打、130打点で三冠王に輝いたスーパースターだ。

 

 本書の主人公ギャレットは、ミッキーの親友で捕手をしていたのだが朝鮮戦争で負傷してポジションを若手のヨギ・ベラに奪われた選手という設定になっている。ミッキーが逆転本塁打を打った試合、ヤンキースタジアムで反共の先鋒たる下院議員が射殺され、死体の第一発見者になったギャレットは事件に巻き込まれる。

 

 ミッキー自身も何度か登場するが、野球のシーンは思ったほど多くない。ギャレットは事件に共産党員の元大学教授が絡んでいるとにらんで彼を追うのだが、それとは別の犯罪組織に命を狙われる羽目に・・・。

 

 ニューヨークからカンザスシティ、ボストンと舞台はめまぐるしく変わり、当時の米国の風俗がいろいろな面から紹介されている。それだけでなく逃走犯人の消失トリックや牛の屠殺場での立ち回りなど、読者サービスは十分です。さすがはデアンドリア、次の作品が楽しみです。