新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

プロを目指す人たちへの遺言

 人生を変える契機になったことというのは、そう多くない。ミステリーとの出会いも、シミュレーションゲームとの出会いもそのひとつだったが、ここで紹介する本「アングロサクソンになれる人が成功する」もそうだった。金融アナリストである著者は、TVのニュース番組のコメンテータなどもしていた人だが若くして病没している。

 
 本書の発表は1998年。冷戦が終わり、日本のバブルが崩壊し、まだ9・11テロやエンロンワールドコムの事件が起きる前の時代。ウォール街が世界を席捲していたころである。IT技術者として企業に入って、20年弱。僕は純粋なモノづくりからは卒業して、金融ビッグバンなど経済社会の変化にともなったソリューション企画や新事業開拓を担当していた。

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 ITのソリューションビジネス、それも新規開拓というのは儲かっている業界から仕掛けるのが常道。従って投資銀行をはじめとする金融界への理解を深める必要があって、いろいろな人とも話したし本も読んだ。決定的だったのがこの本。
 
 ・フラットを越えた、超フラットな組織
 ・金融ビッグバン⇒人材ビッグバン
 ・驚愕の「360度人材評価システム」
 ・持ち株会社の導入はジェネラリストを駆逐する
 ・公私混同だらけの日本の会社
 
 などなど、従来疑問・不信に思ってきたことの答えが一杯書いてあった。本書のタイトルは、アングロサクソン型の金融至上主義礼賛という意味ではない。彼らのビジネススタイルにも優れたところがあり、日本の古い体質の企業はこれにならった改革をすべきだとの提言だと解釈した。
 
 一方従業員の側も企業の中ではなく業界で通用するようにならないといけないというメッセージであって、それが「アングロサクソン」という言葉で表現されている。前々から就社ではなく就職だと思っていた僕には、力になる言葉だった。
 
 この本と出合って20年余、日本の企業も体質改善を図ってはいる。ただ前記「360度評価」にしても、鵜の真似をする烏の領域を出ていない。凡百の啓発本では足元にも及ばない著者渾身の1冊で、プロを目指す人への遺言でもある。