新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最強の首相官邸

 官房長官として歴代最長在位記録を更新し続けているのが、現職の菅義偉議員である。第二次安倍内閣の屋台骨であり、それでいて出過ぎない「出来る人」との印象が強い。こわもての政治家の典型のように僕が思っている古賀誠元議員が「菅は政治というものがわかっている」と若い頃に評したというだけのことはある。


 短命に終わった第一次安倍内閣と今と何がちがうのかと、現役官僚と話しをしたことがある。確かに世代交代はしたが、主要なメンバーは内閣にいるか党にいるかは別にして、かなり共通している。一番の違いは、官房長官だと彼は言う。塩崎元官房長官(現厚生労働大臣)も優れた人だと思う。日銀出身で経済財政政策に詳しく、英語も堪能。まあ、日銀の人は敬遠していると聞くが。

 

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 しかし彼(を含めた霞ヶ関官僚)によると、菅官房長官はモノが違うという。特に官僚を使う術は比類がないらしい。本書でも、匹敵する人として田中角栄元総理を揚げているくらいだ。官僚には2つの本能があって、仕事増やしたくない本能がよく表に出てくるが、入省時などは日本を良くしようと思っているのが普通なので「仕事したい本能」もある。まあ、これは民間でも同じ事だ。

 官僚に気配りをするだけでなくその「仕事したい」方の本能をくすぐるのが上手だと、官僚は奮起し結果がでることが多い。一方で「あからさまな人事をする」という評価(霞ヶ関OB)もあるように、アメとムチの使い分けも絶妙のようだ。

 官房長官は政府のナンバー2、総理が外交など外向けの顔がどうしても強くなるので内側を束ねるのが仕事だ。したがっていろいろな情報が集まってくる、集約ポイントになる。後藤田元官房長官などは、内務省・警察出身でまさに情報管理が本職の人である。菅官房長官は、官僚出身ではなく秘書や地方議員時代が長かった。それでも後藤田さんに劣らぬ情報管理能力を見せたのが、就任早々に起きたアルジェリアの人質事件である。

 結局数名の日本人が犠牲になるのだが、その情報の出し方がこころにくいと作者は書いている。情報は収集も大事だが、活用はもっと大事。どこにいつ出すかという方法も含めて、官房長官の責務は重い。現在の官邸は、ある意味最強であると評されている。屋台骨の官房長官が一番なのは、在位日数だけではないと思う。