新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

幻の英国本土上陸作戦

 1940年ナチスドイツが大陸を席捲しひとりイギリスのみがヒトラーに抵抗していたころ、英仏海峡を渡ってドイツ軍が殺到しているという危機は現実のものになりつつあった。実際「あしか(Sea Lion)作戦」がドイツ軍によって企画され、制空権が握れれば、決行されるところだった。これを救ったのが数百人のパイロットとスピットファイア/ハリケーンだった。
 
 実はその140年ほど前、もうひとつの英国本土上陸作戦が企画されていた。1805年のことで誰がといえば、当時の大陸を支配しつつあったフランス皇帝ナポレオンである。ブーローニュ港に集結していたフランス軍は約35万人。後年のロシア遠征軍60万人には及ばないものの、島国イギリスを打倒するには十分すぎる兵力だった。
 
 当時は制空権というものは存在しない。フランス側が制海権を握れば、イギリスという国の命運は絶えるところまで追いつめられていたわけだ。そこで生起したのが「トラファルガーの海戦」。イギリス軍の戦列艦(当時の主力艦)は27隻、対するフランス・スペイン連合軍のそれは33隻。船の大きさもイギリス側はやや小さく、戦力的には7割くらいと見られていた。

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 以前紹介したアバロンヒルの戦略級ゲーム「戦争と平和」でも、このシーンは再現できる。このゲームでは将軍の役割が大きいのだが、ゲーム全体で海軍の提督コマはひとつしかない。それがこの人、ホレイショ・ネルソンである。ネルソンコマは、海戦の結果を決めるサイコロの目を一つ自軍に有利に修正できる。
 
 陸戦ではナポレオンは+3の修正能力があり、スールト(+2)等のフランス軍将軍は有能である。この時期のフランス軍の強さは士気の高さと共に、指揮官の能力によるところが大きい。しかし海戦ではネルソンに対抗できる提督コマは、他にどこにもない。
 
 現実の戦闘においては、戦列艦ヴィクトリー号に乗ったネルソン提督が先頭に立ってフランス・スペイン連合艦隊を破った。イギリス側では1隻の喪失艦もなく、フランス・スペイン連合軍は22隻を大破もしくは拿捕で失い制海権はイギリス側に帰した。不利な戦力でありながら積極的な戦闘行動に出て勝利をつかんだネルソン提督であるが、敵弾を受けて戦死する。後年の日本海軍であれば「軍神」と奉ったことだろう。
 
 以降「見敵必戦」はネルソンタッチと呼ばれて、英国海軍の規範になった。戦力的に不利な側は、機動性を活かして戦闘の主導権を握り続けなくてはならない。戦場の棋理にかなった作戦を立て、かつ遂行した名将である。僕も戦史を勉強すれば計画は立てられる。遂行できたことが、この提督に対する賛辞を捧げるゆえんである。 
 
 ちなみにヴィクトリー号を模した船は、芦ノ湖で遊覧船として就航している。機会があれば、乗船いただきたいと思います。