新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

攻めの広報、守りの広報

 本書の著者下村健一教授は、TBSのニュース番組から各種の報道に関わった後、民主党政権菅内閣の時に内閣広報官を引き受け、2年公務員の職にあった。本書はその時経験したことを2013年に綴ったものである。

 

 著者は学生時代から、社民連という小政党で一年生議員となった菅直人議員と交流、選挙の支援もしていた。まだ30歳代だった菅議員が政治改革を熱く語るのを見て、自らはメディアの政治報道を志望。「筑紫哲也NEWS23」ではレギュラーコーナーを担当し、TBS退社後も「みのもんたのサタデーずばっと」に出演していた。

 

 2010年旧知の菅議員が鳩山総理の後を受けて第94代総理大臣になり、内閣広報官に招聘される。今「デジタル庁」が民間から人材公募をしているが、当時は民間人の内閣中枢への登用は珍しいことである。それまで官邸の外から政府に批判的な報道をしてきた著者だが、市民運動出身の総理誕生は期待していたことでもあり、菅総理に十分力を発揮してもらうことを望んでいた。その役に立つならと広報官を引き受けるのだが、官邸内に課題は山積していた。

 

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 彼は「官邸は動かないのではなく、動けないのだ」と気づき、総理の立ち位置は「直径1mほどの防火壁の筒の中」にあって、情報も来なければ外の様子も見えないことを理解する。これは今の菅総理も同じ状況なのかもしれない。

 

 そんな中で彼は「攻めの広報」を目指していろいろな提案をするのだが、「守りの広報」に徹している官僚たちからことごとく却下される。それでも「カンフル・ブログ」というサイトを立ち上げ、4種類の情報発信をした。

 

・カンフルTV 総理の動向をありのままに描く動画

・一歩一歩 個々の政策が練られる過程を解説

・官邸雑記帳 食堂メニューなど官邸のこぼれ話

・先を見すえて 総理自身が書くコラム

 

 そんな努力が実を結ぶ前に、東日本大震災がやってくる。特に福島第一原発の状況は最高度の危機であり、菅総理は自らヘリに乗って現場に飛ぶ。筆者も危機管理広報として同行している。筆者は菅総理退陣後も、枝野経産相や古川国家戦略担当相を助けて2年の任期を全うしている。

 

 筆者の「攻めの広報」という考え方は参考になりました。市民運動出身の総理への期待もわかります。しかし政治は結果責任菅総理や枝野大臣らがやろうとしたことも理解はしますが、もう一度お願いする気にはなれませんでした。