新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「数学脳」は批判を呼ぶかも

 本書は昨今「暴言」とも言われるツイートを繰り返して、内閣官房参与を退いた高橋洋一教授が、2016年に戦後経済政策を総括した本。筆者は東大理学部数学科と経済学部経済学科卒。大蔵省入省で、小泉内閣では竹中大臣らを助けてブレーンとして活躍した。本書では、そのころの話も含めて戦後経済の「常識」を片端から打ち壊す内容となっている。

 

 基本的な経済政策としては、マクロ経済としては「失業者を減らすこと」、ミクロ経済としては「政府は細かいことに口を挟まず、民間にゆだねること」を提唱している。ただ政府(外交・国防・通貨担当)としては、デフレ対策はしっかりしなくてはいけないとある。

 

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 そういう視点で戦後経済を振り返ると、

 

1)高度成長は通産省の成果

 傾斜生産政策などやったことに意味は薄く、そもそも上手くいきそうな産業に肩入れして名を挙げただけ。高度成長は朝鮮特需や、1ドル=360円の超円安で成った。

2)1ドル=360円時代は固定相場、為替介入はない

 固定相場といえど宣言したらそうなるわけではない。当時も必要とあれば為替介入はして(高度成長を支えたし)、為替維持のために円を刷ってインフレになったことも。

3)狂乱物価の原因はオイルショック

 すでに石油危機前から(上記の理由で)インフレが加速していた。石油危機はそれを加速させたに過ぎない。

4)「プラザ合意」で日本政府は円高に誘導した

 誘導したというより、固定相場時代から続く介入を止めただけ。その結果「円高」になった。

5)バブル期はものすごいインフレだった

 株価と不動産については確かに高騰した。しかし一般の商品のインフレ率は充分許容できるものだった。

 

 という。失われた20年の原因は、頭打ちの生産性でも、外資の進出でも、不良債権の重しでもなく金融政策の失敗だったという。なかでも、日銀が過剰な独立性(手段だけでなく目標も政府と無関係に決める)を得てしまったこと。これを小泉・竹中改革は途中まで成し遂げたが、結局旧大蔵省に敗れた。この失敗を官房長官としてみていた安倍総理は、日銀総裁に黒田氏を得て「アベノミクス」を展開している。

 

 文科系の多い霞ヶ関官僚の中で、異色の「数学脳」を持ってデータに基づいた政策を唱えていたのが筆者。ただそれは感情的な人たち(特にメディア)には受けなかったようです。まあ、これからも自由に政策議論をされるのがいいと思います。