新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ミッション「生死を問わず」

 ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズは、最初のころ得意分野を探すように作風・テーマを変え続けた。デビュー作「ゴッドウルフの行方」は、大学の街ボストンを舞台にレイモンド・チャンドラーばりのハードボイルド探偵を描いたものだった。第二作「誘拐」は、恋人スーザン・シルヴァーマンが登場し、ホームドラマっぽい雰囲気も出てくる。

        f:id:nicky-akira:20190414201026p:plain

 
 「失投」では、プロ野球八百長疑惑を背景に、かなりバイオレンスなシーンが展開する。バイオレンスが初期のピークを付けたのが、本編「ユダの山羊」である。ロンドンの爆弾テロで娘や孫を殺され、一人ぼっちになった大富豪からの依頼でスペンサーは呼び出される。依頼内容は、テロ実行犯9人を捕えること。生死は問わない、というのが条件。
 
 "Dead or Alive" というのは、米国のブッシュ大統領がテロリスト相手に言った言葉。何度もTV映像で流れたので、発音まで覚えてしまった。1人あたり2,500$の報酬で、賞金稼ぎのようなミッションを引き受けたスペンサーは、ロンドンで「人狩り」を開始する。テロ実行犯は素人の若者で、プロであるスペンサーに簡単におびき寄せられてしまう。ただ、多勢に無勢なので、数人を倒すもののスペンサーも負傷してしまった。
 
 そこで応援にやってくるのが(おそらくはスペンサーより)冷静なプロであるホーク。前作「約束の地」で登場、スペンサーと対立しつつもお互い敬意を払う関係であることが示されている。ホークは、金ノコを持ってロンドンにやってきた。散弾銃を現地で買い、銃身を切り詰めて携帯できるようにするのだ。
 
 映画「ブリット」の冒頭、スティーブ・マックィーンが殺人現場で "Shot-gun, backup-man, they are professional" とつぶやくシーンがある。スペンサーとホークの二人組が散弾銃で武装しているのだから、プロの殺し屋そのままということになる。
 
 ボストンとその周辺に留まっていたこれまでと違い、ロンドン・コペンハーゲンアムステルダムモントリオールと舞台はめまぐるしく移る。最後にモントリオールオリンピックで企画されていたテロを、この二人組が荒っぽく防ぐ。ホークが登場した後半は、男二人のやりとりが軽妙だ。
 
 ホームグラウンドを離れているため、スペンサーは得意の料理もほとんどできない。ルームサービスをとったり、レストランの出かけてビールばかり飲んでいる。ホークという相棒を得て、9人の賞金+アルファを稼いだスペンサー。さて、次はどう変身してくれるのでしょうか。