新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マエストロの習作

 本書は1980年代のマンハッタン、レンタルビデオ店で働く20歳のパンクな女の子が100万ドルのお宝探しに島中を駆け巡る青春小説である。彼女はルームメイトと共にビルの屋上を不法占拠して暮らしている。映画好きで、それゆえにレンタルビデオ店で働いているのだが特にそれからの展望は持っていない。


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 そんな彼女(通称ルーン)がビデオの回収に訪れると顧客は死体となっていたことから、事件が幕を開ける。不美人というわけではないが都会的でパンクなお姉さんなので、シンデレラというのは抵抗がある。原題の"Manhattan is My Beat" の方がずっと似合う内容である。また、帯にある「恋あり、夢あり、冒険あり。ポップに弾けるヒロインがNY狭しと大活躍」というのもあながちウソではない。
 
 しかし前半はやや冗長なストーリー展開、とても「大活躍」という風情ではない。どうして辛口の書評になるかというと、これが「どんでん返し職人」ジェフリー・ディーヴァーの作品だから。安楽椅子鑑識官リンカーン・ライムシリーズはもちろん、「獣たちの庭園」や短編集「ポーカー・レッスン」など圧倒的な筆力を見せつけるマエストロである彼も、以前はこのような作品を書いていたのかと、半分納得、半分驚きをもった。
 
 さすがに後半になると、どんでん返し職人の本領発揮で、最後の100ページは二転三転ならぬ三転四転する。本書は1988年の発表、デビュー作"VooDoo" (日本では出版されていない)に続く2作目らしい。リンカーン・ライムシリーズ第一作「ボーンコレクター」でネロ・ウルフ賞を取り、映画化もされてブレイクしたのが1997年。それにいたる、足掛け10年の習作期間の作品ということだろう。ディヴァーはルーンシリーズを3作で止め、次の主役探しをしている。
 
 ライムシリーズや「獣たちの庭園」と比べてどこが違うかというと、プロットそのものは同じくらい素晴らしい。ただヒロインの設定に無理があり、薄っぺらい印象が残る。それゆえ彼女の周りに出没する敵か味方か分からない登場人物も、紙芝居のように見えてしまうのだ。
 
 現在最強のミステリー・マエストロと思っている作者も、一朝一夕には為らなかったのだとほほえましく思いました。