新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Google MAPのおかげ

 本書は、何度も紹介している津村秀介のアリバイ崩しもの。このシリーズの特徴は、ルポライター浦上伸介とその仲間たちが、犯人と目される人物の鉄壁とも思えるアリバイトリックを暴くことにある。しかしトラベルミステリーの要素もあって、多くは日本国内だが風光明媚なところを紹介してくれる。

 

 抒情的な風景描写は深谷忠記のシリーズが勝ると思うのだが、浦上伸介ものは公共交通機関、特に鉄道で行ける範囲が多いので僕はこの方が親近感がある。作者の作品はすでに40作近く読んでいるので、最近はそのアリバイトリックはかなりの確率で分かるようになってきた。とはいえ事件当時の時刻表が手元にないので、

 

・当時この駅あったかな?

・もう無くなった列車だけどこのころはあったはずだ。

 

 などと記憶をたどりながらページをめくってゆく。また事件の起きた場所の周辺を知っているかどうかも、謎解きに影響する。本書でいうなら、第一の事件が群馬県の水上市、第二の事件が大阪府豊中市で起き、関係先として三浦半島京急線沿線が出てくる。正直、僕がほとんど知らないエリアばかりだ。こんな時役に立つのが「Google MAP」、縮尺自在なので殺人現場付近の公共交通機関(新幹線・空港・船着き場等)がいろいろなスケールで確認できるのだ。

 

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 本書の事件は、水上で旅館の末娘が帰省中に殺される。また豊中で単身赴任中のサラリーマンが殺される。いずれも凶器は真新しい出刃包丁、現場にモミジの枝が残されていた。群馬県警大阪府警の捜査で、被害者の二人は既婚者なのに不倫関係にあったことがわかる。捜査線上には遺されたサラリーマンの妻、旅館の娘の夫が浮かぶ。関係者が全て横浜市民だったことから、伸介とアシスタントの美保の登場となる。

 

 重要容疑者は二転三転するが、事件の朝上野の刃物屋で2本の包丁を買い、昼に水上で女を殺し、夜に豊中で男を殺したというルートが見えてくる。その移動が可能だったかというのが読者に突きつけられた課題。

 

 読者からすると、「作者はなぜこの場所この時間に殺人をしたのか」を考えるのが、邪道ではあるものの近道。そんな時「Google MAP」はとても役に立ってくれるのです。今回も、おおむね犯行ルートは分かりました。ありがとうGoogleさん。