「A形の女」でデビューしたマイクル・Z・リューインは、決して多作家ではないが「ネオ・ハードボイルド」の旗手のひとりと評価されている。インディアナポリスを舞台に、私立探偵アルバート・サムスンものを7作、パウダー警部補もの3作ほかを残した。本書はサムスンものの第五作にあたり、ちょい役ではあるがパウダー警部補も登場する。
バツイチで一人暮らし、母親の経営する食堂で食べる日常の中年私立探偵であるサムスンは、登場したころから貧乏だった。報酬も$35/日と格安、第四作の「沈黙のセールスマン」のラストではついに破産状態になり、事務所も追われそうになっている。「心優しき知性派探偵」と書評にあって、確かに第一作、第二作はそう思ったのだが、第三作「内なる敵」では情けなさだけが目立ち、第四作「沈黙のセールスマン」は前述のようにお先真っ暗で終わっている。
本書はシリーズの中で傑作とされるものだが、読み始めるまでは少し心配だった。冒頭「42歳にもなって、何のために生活費も払えない生活を・・・」と自ら嘆いてもいる。しかし、その後のサムスンの活躍は目覚ましい。
サムスンのもとを訪れた女が昔馴染みの友人が家出したと聞いて、彼女を探してくれと言ってくる。その友人プリシラ・ピンは、夫を残して住んでいる田舎町ナッシュビルのプレイボーイと駆け落ちしたらしい。しばらくたってそのプレイボーイの他殺体が見つかり、プリシラやその夫に容疑が掛かる。プレイボーイは50人ほどの女性と関係していたことが分かり、ゴシップ好きの田舎町が「噂のルツボ」となった中、サムスンはプリシラを探し始める。
アイロニーを含めたユーモアたっぷりの独白を続けるサムスンは、これまでの作品を上回る冴えを見せ、女保安官や弁護士たちに先だちプリシラを見つけることに成功する。しかし、犯罪者は今度はサムスンに銃口を向けてきた。