新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ビン・ラディンを狙った作家

 原題の"Black Site" とは、アフガニスタンパキスタン国境のカイバル峠に置かれた(という設定の)捕虜収容所を示す。タリバンなどの中間指導層を捕えておく、極秘の施設である。よくある落ちぶれた元特殊部隊員が、友人を救うために厳しい訓練で自らを叩きなおしてミッションに臨むというストーリーだ。

 
 SASやSEALSが良く出てくるが、今回はデルタ・フォース。まあ軍人でもない僕たちには、その違いだって良くわからない。どれもタフで戦闘能力にずば抜けた男たち、くらいの認識である。作者もそのような組織の経験があることが多い。クリス・ライアン(ペンネームで本名は非公開)はSASだし、柘植久慶グリーンベレーの教官と自称している。

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 本編の作者ドルトン・フュアリーもデルタ出身。しかも、ただの隊員ではない。部隊指揮官として、オサマ・ビン・ラディン暗殺計画に携わった経験を持っている。本編の前に"Kill Bin Laden" というノンフィクションがあり、本編はその経験を活かしたフィクションのデビュー作である。500ページあまりの大作だが、上下巻はあたりまえの昨今1冊に収まっているだけでありがたい。読み終わった感想は、ごく普通の軍事小説だということ。
 
 もちろん豊富な知識とリアリティある戦闘シーンはすごいのだが、酒浸りになっていた主人公が復活するくだりが、あっさりしていて心理的な何かが足りないような気がする。アフガニスタンに潜入した主人公がたどる道に、何か驚かされるところがない。ミステリーとしての、ひねりの効いたプロットというものは余り感じなかった。
 
 あとがきに、作者が「国語の授業がきらいだった」と書いているし、何人かの協力者が挙げてあったうちにマーク・グリーニーの名前があった。トム・クランシー最後の共著者で、以前「戦闘級のチャンピオン」と評した作家である。戦闘シーンの迫力は彼に拠るところが多いのかもしれない。
 
 冒険活劇として読むよりは、セミ・ドキュメンタリーとしてパキスタンアフガニスタンではこのくらいの事がいつ起きてもおかしくないことを知るための参考書にしたほうが良いかもしれない。