新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ナポレオン軍団の内側

 コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズシリーズで「サー」の称号を貰ったはずなのだが、実は(自分より有名な)ホームズが嫌いで、SFから怪奇ものまでいろいろな作品を残した。広範な知見と好奇心を持っていたことは間違いがない。

 

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 本書は、ナポレオン麾下の実在の将軍をモデルにしガスコーニュ生まれの快男児エチエンニュ・ジェラールの活躍を描いた8編の短編が収められている。軽騎兵連隊一の腕前の剣士であり、物語では中尉から始まってナポレオンの特命を成功させて大尉となる。大佐として連隊を指揮し、ついには准将まで昇り詰める。
 
 「14の国で男と闘い、女性に接吻した」とのたまうのだから、19世紀のプリンス・マルコのようにも見える。(そういえばマルコシリーズの作者も、ジェラールという名のフランス人)
 
 当時の全世界にあたり欧州を席捲したナポレオン軍団の強さには、2つの理由がある。ひとつは世界初の市民革命を成し遂げ、周囲の封建国家からの反発にさらされたことによる市民(兵士)の士気の高さ。もうひとつはナポレオン本人を始め、綺羅星のように居並ぶ名将たちの指揮能力である。
 
 アバロンヒル社の歴史ウォーゲーム「戦争と平和」では、10年以上にわたるナポレオン戦争が体感できる。優秀な将軍のいないオーストリア軍などは兵力ばかり多くても役に立たないし、ウェリントン卿のような名将を持つイギリス軍は兵力が少ない。本書は、マセナ将軍がケチだとか、ミュラー将軍が気取り屋だとかナポレオン軍団の内部評価をしているのが面白い。
 
 さて主人公のジェラール准将だが、愛馬にまたがり剣を振るえば無敵だが、悪知恵の働く山賊の頭目にあっさり縛り上げられるなど、ドジも多い。シャーロック・ホームズとは違い、愚直な軍人を描いた歴史もの、作者が楽しんで書いたことがよくわかりますね。