新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

新鋭が挑む将棋のタイトル戦

 作者の斎藤栄は、東京大学将棋部出身。公務員在職中からミステリーを書き始め、三度目の江戸川乱歩賞候補となった1966年の本書で、乱歩賞を得た。ちょうど藤井七段の登場で将棋界がブームに沸き立っており、本書を45年ぶりに読んでみた。

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 僕も中学生までは将棋好きで、将棋盤を使わないブラインド将棋に挑戦(当然40手目くらいで挫折)したり、自作の詰将棋(余詰めだらけでものにならず)を作ったりしていた。だから、この本を興味を持って手に取ったのを覚えている。
 
 27歳の新鋭棋士河辺八段は、タイトル戦予選決勝で強豪前田九段を破り、初めて名人に挑むタイトル戦の挑戦権を得る。ところが、タイトル戦を戦う前に、一人娘の万里ちゃんが誘拐されてしまう。
 
 模型会社(なんとなくタミヤ模型を思わせる)社長の舅からも借りて、1,000万円の身代金を用意した河辺家だが、警察の目の前で金を持ち逃げされてしまう。娘の安否を気遣いながらも、河辺八段は名人との三連戦に挑む。タイトル戦は長いものは7番勝負だが、この設定は3戦の短期勝負。北海道定山渓に始まり、有馬温泉雲仙温泉へと続く。
 
 捜査の方は早期に容疑者を特定したまでは良かったが、ヤサに踏み込むと部屋の主は刺殺されており、子供もカネも消えていた。捜査陣は共犯者がいたと考えて、それを追う。河辺八段は第一戦を死闘の末制したものの、娘の安否を気遣う心労もあって消耗しつくしていた。
 
 乱歩賞の審査では、犯人やその動機の設定に無理があるという批判もあったようだが、犯人あてミステリーとして読むのではなく、将棋のタイトル戦と誘拐事件捜査(人質救出)が並走するサスペンスものと見るべきだ。最後に犯人を崖上で追いつめるシーンなど、後のTVの2時間ドラマを思わせる。
 
 ある意味、古式ゆかしい日本式のミステリーでした。せっかく将棋の知識が該博なのですから、もっと将棋シーンが手厚いと良かったのですが。