新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

幕末、京都に咲いた徒花

 幕末の中でもほんの一時期、京都で剣を振るい耳目を集めた剣士集団「新選組」。最大でも200名を超えたこともなく、募集・内紛・脱走を繰り返したある意味無頼な浪人の集まりであるのに、日本人の認知度は高い。これは子母澤寛の名著「新選組始末記」に拠るところが大きい。

 
 僕も中学生のころ「始末記」を読み、司馬遼太郎燃えよ剣」を読んだ。後者は連続TVドラマ化され、当時人気の高かった俳優栗塚旭土方歳三、島田順司(のちに「はぐれ刑事純情派」で情けない捜査課長を演じるが、このころは実に格好良かった)が沖田総司を演じた。

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 「燃えよ剣」は土方歳三が主役で局長近藤勇は脇役だったが、池波正太郎の手になる本書は近藤局長を中心に据えている。幕末という近世の時期だけに、作者が直接生き証人や残された記録文書に触れる機会もあり、これが作品に厚みを加えている。本書でも随所に永倉新八(二番隊隊長)が後年77歳まで生きて語ったエピソードが盛り込まれている。
 
 このため永倉新八が副長土方歳三より目立つのはやむを得ないところ。無頼浪士の集まりである新選組を鉄の掟で統率した、土方副長の冷徹さばかりが漂う。近藤勇が試衛館という道場を開いていたころに始まり、その仲間たち(土方・沖田・永倉のほか、山南敬介、井上源三郎原田左之助藤堂平助ら)と京都で新選組を立ち上げ、戦い敗れて下総で処刑されるまでが描かれている。
 
 新選組の主だった隊士のほとんどは、戦死・暗殺・切腹で天寿を全うできなかった。土方副長は近藤・沖田の死後も函館五稜郭まで戦い抜き、今の函館駅近くで戦死を遂げた。幕末の徒花とも言える新選組だが、日本人にはなじみが深い。結局誰が一番剣(槍も含む)の腕が立ったのかというのは、マニアの間でよく闘わされる議論だ。
 
 あるシミュレーション・ゲームでは、薩摩・長州などの浪士も含めて剣の腕前がレーティングされていて、最高は沖田の4。結核という病気持ちながら、彼の三段突きから逃れることはできないとも書かれている。池波流に味付けされた新選組譚、休日の気軽な読み物としては最適でした。