新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ミステリーの始祖、E・A・ポー

 詩人・批評家・編集者でもあるポー(Edger Allan Poe)は、1809年ボストンに生まれている。まだナポレオン1世が大陸に覇を唱えているころであり、アメリカ合衆国も独立から半世紀も経っていない。1830年代からいろいろなジャンルの文学を扱い自らも著わしていた彼だが、1840年代に発表されたいくつかの中短編小説で「ミステリーの始祖」となった。

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 代表的なものは、
 
 ・モルグ街の殺人 1841年
 ・マリー・ロジェの謎 1842年
 ・黄金虫 1843年
 ・盗まれた手紙 1844年
 
 「モルグ街の殺人」で登場したオーギュスト・デュパンは、黄金虫を除く3編で探偵役を果たし後年の名探偵のモデルとなった。本書には「マリー・ロジェの謎」を除く3編が収められている。
 
 僕がこれらの作品を読んだのは、本書で3度目である。正確に何時かを覚えていない子供のころ、少年文庫のような本だったと思う。ポーのミステリーには、物事の考え方や分析の仕方がいろいろな例をひいて述べられている。
 
 「モルグ街」に出てくる、おはじきの偶数・奇数をあてるゲームで絶対的な強さを誇る少年の話。彼は、相手の知能レベルを測ってその行動を予測し、ウラをかくことができるのだ。
 
 「盗まれた手紙」に出てくる「最も目立つところにあるものが、実は目立たない」という警句のような心理学。これも相手が大臣であると同時に有能な数学者であることに着目したデュパンの推理である。「黄金虫」の中で探偵役のルグランが説明する、置換字法によって作られた暗号を解く手法にも目を見張らされたのを(子供心に)覚えている。
 
 その後大学生になって、創元社の「ポー短編集」を買って2度目に読み、今回が3回目ということ。もちろん新しいサプライズはないのだが、改めて180年ほど前にこのような作品が発表されていたことに驚く。古典といえば、洋の東西を問わず人間の感情や情緒を記したものがほとんどである。しかしポーのこれらの作品は、論理のための論理を追っているのである。これが「ミステリーの始祖」たるゆえんである。