新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

人生100年時代のプロローグ

 アガサ・クリスティーは、トミー&タペンスものの長編を4つ書いた。最初の「秘密機関」は1922年発表、当時の2人は20歳代前半だった。しかし3作目の本書(1968年発表)では、2人は60歳代後半のはずである。2人の子供も結婚して孫もできた。そろそろ落ち着いてもいいころ合いだが、冒険好きなことは変わらない。

 

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 トミーの叔母さんミス・エイダは80歳代、高齢者施設「サニー・リッジ」で暮らしている。記憶が定かでなくなり、甥の嫁タペンスのことなど覚えていない。気難しくてとても扱いにくい老人である。
 
 施設に見舞いに行った2人は、誤飲を繰り返す人、ココアを飲んだことを覚えていない人、どこか遠くを見つめている人・・・多くの入所者を園長のミス・パッカードが清々とさばいていくのを見た。そのエイダ叔母さんが急死、遺品を引き取りに行った2人は、気になる絵を見つける。タペンスにはその田舎町の運河の側に建つ一軒家に見覚えがあった。
 
 事件の匂いを嗅ぎ取ったタペンスは、持ち前の冒険心から絵のルーツや持ち主を探して旅に出る。絵の作者の未亡人、一軒家に住む夫婦、一軒家周辺の大地主など、いろいろな人物が登場するが多くは60歳代以上。
 
 高齢者施設での急死が相次いでいること、昔少女が何人も殺されたこと、連続強盗事件の黒幕と目される人物など、複数の疑惑が巻き起こる中、真相に近づいたタペンスは何者かに殴り倒される。クリスティーは当時78歳、意図してではないだろうが、高齢者ばかりが出てくる作品になった。叔母さんから若者扱いされるトミーだって、もうじき70歳なのだから。
 
 改めて読んでみると、ミステリーとしてより元気な高齢者の教科書だと感じた。高齢化は日本より早く訪れたかもしれないイギリス、人生100年時代がこの時すでに予見されていたのでしょう。