新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最も優れた戦略家の警告

 米中衝突の可能性が高まる中、2021年に出版された軍事スリラーが本書。作者は海兵隊特殊部隊出身の作家エリオット・アッカーマンと現役時代「最も優れた戦略家」と讃えられたジェイムズ・スタヴリディス提督。恐らくスタヴリディス提督が構想と監修を担当し、実際の筆はアッカーマンが取ったのだろう。日本語訳の監修を海上自衛隊司令官だった香田先生が行い、帯にもコメントしている。曰く「日本も想定すべき最悪のシナリオ」である。

 

 2034年台湾海峡で航行の自由作戦を実施していた米軍駆逐艦3隻が、遭難した中国のトロール船を救助した。しかし、その船内には見たこともない巨大な電子機器<文瑞>があった。機器を接収した艦隊司令ハリス大佐だったが、中国海軍は空母「鄭和」を含む20隻ほどの艦隊を急派し<文瑞>を返還しろという。

 

        

 

 米艦隊は謎の電子攻撃にさらされて、航行も攻撃・防御も出来なくなってしまう。物理的な攻撃も受け、2隻沈没、1隻大破の被害を受ける。怒った米国は横須賀から2個空母機動部隊を派遣するが、やはり電子攻撃を受けてほぼ全滅となってしまう。追い詰められた米国大統領はついに戦術核の先制使用を認め、中国南部の1,000万都市がひとつ消えた。中国も直ちに反撃、サンディエゴともうひとつの都市を消す。全面核戦争の危機が迫ってきた。

 

 中国はサイバー攻撃力を見せつけた。F35を不時着させたり、艦艇の制御をマヒさせたり、米国本土に大停電を起こさせたりする。この10年以上、中国はその能力を磨いてきたのだ。しかしもう1国、サイバー攻撃力を蓄えた国があった。

 

 サイバーセキュリティ関係者の間では「最悪のシナリオ」を設定して対処を考えることが始まっています。本書は危機管理の先達、米軍のシナリオ・シミュレーションなのでしょう。戦略家としての提督が、米国政府や市民に宛てた警告だと思います。