本書も今月20日に出版されたばかりの本、これも著者からいただいたものだ。先月2012年発表の「サイバーテロ、日米対中国」を紹介した、慶應大学土屋教授の近著である。著者は(お読みになったかどうかは知らないが)僕の拙劣なコメントも莞爾と許していただき、本書を送っていただいたようだ。2012年当時から著者はサイバー空間での国家紛争の行く末を予期し前著を著したのだが、状況はおおむねその予想通りに(困ったことだが)進んでいる。
陸海空と宇宙に続きサイバー空間は「第五の作戦領域」とみなされるようになった。米軍も2017年には、サイバー軍を一つの統合軍として独立させる組織再編をしている。ただこれまで国家間の宣戦布告を経たサイバー攻撃はなく、サイバー戦争は「ありうる事態だが、まだ起きていない」という。国家レベルの攻撃を含めて、まだ犯罪・スパイ行為・テロのレベルに留まっている。ただ攻撃そのものの危険性は増しているので、アンティシペーション(予期)とアトリビューション(特定)の能力を高めるべきだという。
本書はアナログ時代のSigintからの電子戦の歴史を踏まえ、地政学的なサイバー戦争の可能性を紹介している。サイバー空間で重視されるインテリジェンスは、外交にも安全保障にも欠かせないものだ。憲法上「軍隊」を持たない日本という国において、サイバー空間での「戦闘能力」は他の国よりも貴重なものかもしれない。著者は、サイバー攻撃能力の研究をするべきだと提案している。サイバー空間では攻撃と防御は表裏一体のもの、専守防衛では守り切れないのだ。
僕自身も今月あるところで講演した際「攻撃能力がないと防衛できないのは本当か」と、某省幹部OBに問われた。答えはもちろん「YES」で、研究目的でマルウェアを作ってもお縄になると法制不備を訴えた。著者はさらにアンティシペーションのためにネットワークの監視能力強化がいるのだが、憲法21条「通信の秘密」条項が壁で限界があるとも訴えている。
Huawei問題をはじめとする中国の挙動、米国大統領選挙に介入したと思われるロシアに加え、イスラエルやルーマニアなどの国の状況も、著者が実際に足を運んで得た情報が詰まった書である。サイバーセキュリティは経済問題が主なのだが、これほどまでに安全保障と近接しているのを知ることができる。産業界の経営層にも、ぜひ読んでいただきたいです。