新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

市民視点のサイバーパニック

 2013年発表の本書は、マシュー・メイザーの2作目の小説。もとは自費出版のEブックとして世に出たのだが、サイバー攻撃の脅威をヴィヴィッドに描いていることが評判を呼び、20ヵ国ほどで出版されている。映画化の話もあったと言うが、実現したかどうかは定かではない。

 

 ニューヨークに住む投資コンサルタントのマイクは、小さなマンション(不動産がとても高い!)で妻のローレンと乳飲み子のルークと暮らしている。妻の両親は政治家で富豪でもある。マイクの親戚は中産階級で、大学を出たのもマイクが初めて。不釣り合いな結婚だが、仲のいい家族だ。マンション仲間にも面白い人が多い。第三次世界大戦サイバー攻撃で始まると種々の物を備蓄するチャックとスージーの夫婦、資産家リチャード一家、レニングラード攻囲戦の生き残りというロシア人老夫婦等々。

 

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 クリスマスも近い日、米中関係は極度に緊張、南シナ海で空母がにらみあうまでになる。まず、スマホが遅くなり、インターネットが途切れがちになった。何者かがDNS(.jpなどを管理するサーバー)を攻撃しているらしい。イランも「米国に死を」と叫んで何かを仕掛けている。中国か、イランか、はたまたロシアか。どこからとも知れぬ攻撃で物流網が停止し、被害は水道・通信・電力インフラに及んでいく。折から鳥インフルエンザが流行し、暴風雪もマンハッタンを襲う。

 

 マイクのマンションでは自家発電機まで用意していたチャックの下に住人が集まり、共同生活を始める。備蓄食料を分け合い、雪を溶かして飲料水にする。街では略奪が始まり、警察も消防も機能を失って無法状態になっていく。「どうしてこんなことになったの?」と問うローレンに、チャックは、

 

・インターネットは誰も管理していないし、止まった責任が誰かもわからない。

・(IoTで)水道・通信・電力などのインフラも、インターネット任せにしたからだ。

 

 という。同じようなテーマのマルク・エルンベルグ「ブラックアウト」と比べると、視点がマイクたち一般市民に限定されるので、原因はサイバー攻撃だが普通のサバイバル小説の色が強くなっている。防衛や医療の崩壊も、マイクらが見聞きした範囲でしか語られず、ちょっと迫力不足。

 

 作者はサイバーセキュリティの専門家、知識は充分ですが、それを一般読者に分かるように書くのは難しかったようです。やや竜頭蛇尾の感がありました。