新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

男爵対公爵

 イギリスにシャーロック・ホームズあれば、フランスにはアルセーヌ・ルパンあり。「3世」ではない、オリジナルのルパンもので、最高傑作とされるのが本書である。作者のモーリス・ルブランは「夫婦もの」を得意とした純文学者だったが、「特別にに面白い冒険もの」をと依頼されて、1904年「アルセーヌ・ルパンの逮捕」を発表、好評を博した。

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 もともとミステリーの始祖E・A・ポーに傾倒していたこともあって、その後50余りのルパンものを残している。ルパンは、数々の変名をあやつり変装も得意な「強盗紳士」、本書ではセルニーヌ公爵と名乗って活躍する。
 
 南アフリカの大富豪ケッセルバッハ(ボーア人かな?)は、パリのアパルトマンの1フロアを借り切って新しいビジネスに取り掛かろうとしていた。ルパン一味は彼を襲い、秘密の文書と小箱を奪って去った。ルパンはケッセルバッハを縛ったまま逃走するのだが、その後ケッセルバッハは何者かに刺殺されてしまう。
 
 パリ警視庁のルノルマン保安課長は、ルパンが殺人をするはずがないと考えて捜査を開始し、ルパンの手先を捕らえるなどの活躍をする。しかし「L・M」と名乗る凶悪な殺人者は、冷酷に事件の関係者を殺していく。
 
 やがてアルテンハイム男爵という男と、その一味が捜査線上に浮かぶが、ルノルマン課長の部下グーレル警部も殺され、課長自身も行方不明になってしまう。事件は、ルパンことセルニーヌ公爵とアルテンハイム男爵の一騎打ちの様相を呈してくる。
 
 一人二役/三役が随所に出てきて、その正体がわかるときは驚くこともあるのだが、いかにも古いトリックだとも思う。ルパン自身もクールなイメージはなく、激高して部下を怒鳴ることもある。クライマックスのアルテンハイム男爵との対決シーンも、なんとなく平凡だ。
 
 学生の頃読んであまりそそられず、ルパンものはほとんど読んでいない。ストーリーも好みに合わないのだが、文体もいかにも古めかしいのが気になる。訳者はフランス文学の大御所ですが、その後忖度してか新訳に挑戦する人はいなかったようだ。翻訳が現代風に変われば、もっと読みたくなるかもしれないのですが。