新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

英仏ヒーローの知恵比べ

 20世紀初頭、フランスミステリー界をリードしたのがモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパンもの」。ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」などフランスの古典ミステリーも質的には評価が高いが、英米に比べると数では劣る。それをカバーしたのが「ルパンもの」といえるだろう。ただ、そこは洒落者のフランス人、官憲の手先のような名探偵では大衆受けしない。そこでヒーローは「強盗紳士」となった。日本の時代劇で言う「義賊もの」である。
 
 本書は作者が、本家英国に挑戦した「ルパン対ホームズ」という1編。原題では「アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ」となっていて、やはり本家はホームズをそのまま貸し出すことを容認していない。ワトソン博士など「助手のウィルソン」とされてしまい、本編中で2度も負傷するなど役に立っていない。
 

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 舞台はパリ、ある建築家が建てた多くの物件に秘密があり、ルパンはその仕掛けを使って文書や宝石、一見価値の分からないものを盗み出すのに成功する。おなじみ老探偵ガニマール警部が追いかけるのだが、尻尾の端もつかめない。そこである富豪が英国からホームズを1ヵ月の期間限定で借り出し、ルパンを捕らえようとした。
 
 依頼を引き受けたホームズだが、パリに到着早々レストランでルパンと遭遇してテーブルを共にする羽目になり、早くも心理的な前哨戦が始まる。変装得意で地の利もあるルパンは、ホームズの監視も十二分に行える立場にある。ホームズも変装して街に出、徐々にルパンの優位を崩して行く。最初の戦いは、ホームズがルパンを罠にかけ逮捕させるのだが、ホームズが英国に帰国してみるとルパンは逃亡していた。意気込んだホームズは、今度こそとより大きな罠を仕掛ける。
 
 古式ゆかしい物語で、翻訳文も読みにくい。それでも名探偵対決はそれなりに面白かったです。それにしても、了解を取り付けないで借りてくるとは、作者は大胆なことをするものです。日本映画で「大映座頭市」が「東映用心棒」を借りてきたものがありました。ちょっとそれに似ていますね。どちらの顔も潰すわけにはいかないでしょ。