新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ルパン、20歳の冒険

 フランスの作家モーリス・ルブランが、いかにもフランスらしい「名探偵」アルセーヌ・ルパンを世に送り出したのは、1905年だった。神出鬼没で変幻自在な強盗紳士、警察のハナ先から貴重なものを失敬するヒーローである。多くの作品が書かれ、のちに「ルパン三世」などの亜流も生んでいる。

 

 1924年発表の本書は、ルパンのルーツもの。20歳の頃ラウール・ド・アンドレジー子爵と名乗っていたのだが、実は格闘家テオフラスト・ルパンの息子。両親ともに今はなく、社交界に出入りするのは盗みのためである。しかし南仏のリゾートでド・アチーグ男爵の娘クラリスと出会い、愛し合うようになってしまった。男爵がニセ子爵を婿に選ぶはずもなく、二人は密会を重ねるだけだった。

 

 ところが男爵自身にも裏面があった。彼はド・アルコール公爵の後ろ盾で、陰謀団を使った財宝略取を計画していたのだ。フランス北部の修道院ネットワークに隠されたお宝は、古い宝石の山。その場所を探るうち、男爵らはもうひとつの勢力と競合していることに気付く。その首領カリオストロ伯爵夫人は、25年前の若き男爵と因縁があった美女。捕えてみたところ、25年前そのままの美貌だったことに男爵は動揺する。

 

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 伯爵夫人の本名はジョゼフィーヌバルサモ、ナポレオン一世の最初の妻ジョゼフィーヌが名付け親になり、ロシア皇室で育てられたという。それが事実なら、すでに100歳近い高齢だ。女の魅力を振りまき狡知にたけた「妖術使い」の彼女に、男爵ばかりかラウールまでが魅了され、ラウールは男爵一味から彼女を助け出す。

 

 彼女に骨抜きにされながらも、ラウール青年は宝石のありかを探り、その秘密を推理する。その間に徐々に伯爵夫人の魔力から逃れたラウールと、男爵一味、伯爵夫人の仲間たちの三つ巴の戦いが始まる。

 

 全編を通じて回りくどい表現が多く、展開するストーリーの内容で400ページはちょっと長い。ラウールは何度も敵の手におち縛られてしまうのだが、種々の芸と運で切り抜ける。

 

 後日談として、クラリスと結ばれたラウール子爵とその子供たちの話も書かれていました。それが悲劇だったことで、後の強盗紳士アルセーヌ・ルパンが誕生したというわけです。