新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

可哀そうすぎアルバート・サムスン

 インディアナポリスの心優しき私立探偵アルバート・サムスン、「A型の女」でデビューした彼はこれまで6作の長編で探偵役を務めた。「インディ500」くらいしか目立った話題のない地方都市で、地味に探偵業を営んできた。銃はもたず、暴力を振るう事もない。(振るわれることはままあるが・・・)

 
 バツイチの独り者で、母親が経営する食堂で食事をとり、大酒を呑むことも夜の街をハシゴすることもない品行方正な男である。特に相棒もおらず、事件によっては酷い目にあうこともあるのだが、哲学的な独白をしながら淡々と運命に従っているように見える。

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 何しろ料金が安いので、いつも懐具合は悪い。一度は倒産して事務所も追い出されてしまった。その後、パトロンの助けで事務所を再開したが本書ではそのパトロンの姿もない。今回の事件、インディアナポリスに爆弾魔(テロリスト)集団が出没し、ひょんなことからサムスンは爆弾魔集団から依頼を受ける羽目になる。
 
 4人の爆弾魔たちは実は人を殺すつもりなどなく、環境問題を社会に訴えるために「爆発しない爆弾」を使って社会に警告しているのだという。ところが爆弾そのものは本物なのに、それを盗まれてしまったのだ。サムスンにその爆弾を探してもらおうと言うのがその依頼。
 
 当然この依頼を受ければ違法行為に手を貸すことになるのだが、迷った末サムスンは爆弾探しを引き受ける。1991年発表の本書、背景には環境問題への意識の高いエスタブリッシュ層の増加があり、一部は先鋭化してテロリストまがいの行為に及ぶことも十分に考えられた。彼らは資金も時間もあるのだから、やろうと思えばできるかもしれない。
 
 サムスンの活躍で爆弾は回収できるし、正体を隠していた環境問題テロリストたちの正体も割れるのだが、事件は終わったとほっとしたところでサムスンは警察に逮捕されてしまう。独白が取り得のサムスンだが、最後は留置場で今後どうなるかのシミュレーションを独白しつづけることになってしまった。
 
 作者のマイクル・Z・リューインは、その後サムスンシリーズを書かず2004年になって「眼を開く」を発表してシリーズを終えている。その作品でどうなるのか全くわかりませんが、13年間も留置場に入れっぱなしなんて、可哀そうすぎませんか?