ジェラール・ド・ヴィリエの連作小説、プリンス・マルコシリーズ。第一作「イスタンブール潜水艦消失」以降、年間4作のペースで発表されている。本書は、1978年の発表。僕はこのシリーズを昔ある程度読んだのだが、40年経って三軒茶屋のBook-offで40冊ほど見つけて、買い込んでおいた。
これを発表年代順に並べ、おおむね2/3くらいまで読み進んできた。最初に読んだのは、もちろんデビュー作である。神聖ローマ帝国第18代大公である主人公が、CIAの手先となって世界を駆け巡って冒険する話である。さて本書「セーシェル沖暗礁地帯」であるが、実はこれがマルコシリーズの日本デビュー作なのである。銃器をもったセクシーなお姉さんがカメラを睨んでいるカバー写真は、この文庫版の特徴でもある。
普通は発表の時系列に従って翻訳していくのだろうが、「イスタンブール潜水艦消失」はスパイスリラー/アクションとしては地味すぎたようだ。そこで出版社は、当時の最新作である本書を最初に出版したものである。数か国語を話し高級貴族の教養を持ったほか、抜群の記憶力がある以外、マルコに特殊能力はない。決して超人スパイではない彼を主役に据えることでリアリティとロマンチシズムを与えた、ユニークなスパイものである。
このシリーズ、サディスティックなシーンとエロチシズムに加えて観光的要素を加えたのが成功の秘訣とも言われる。巻を重ねるごとにサディズムとエロチシズムはエスカレートするのだが、その最新刊を日本の読者にぶつけ認められそうなら残りを翻訳、出版しようとしたのだろう。
本書は、インド洋(地図を改めてみて、こんなに広いのかと思った)の真珠と言われるセーシェル諸島にイスラエルが発注した核兵器用のウラニウムを積んだ貨物船が座礁、沈没することから始まる。イスラエルからはモサドが、対するイランからも特殊部隊が派遣される中、手薄な現地CIAの応援にマルコが派遣され、文明とは程遠いエリアで危険な任務に就く。