スカンジナビア半島の北端、そこは完全に北極圏で日本人には馴染みのないところだ。ここが歴史に登場するのは、第二次世界大戦中ナチスドイツと戦うソ連へ連合国が物資援助をする船団を送った時である。輸送船にはM4シャーマンやM3ハーフトラック、小火器、弾薬などの兵器のほか、衣料や食料、医薬品なども積まれていた。
この船団を黙って見過ごすほど、ドイツ軍は甘くない。占領したノルウェーの基地から爆撃機を飛ばしたり、Uボートや駆逐艦などの艦艇、果ては高速巡洋戦艦まで投入して輸送船団を狙った。当然船団護衛の艦隊と海戦が発生、文字通り凍り付く海で両軍兵士の厳しい戦いが繰り広げられた。もし海に落ちれば、数分と命はもたない。
本書は東西冷戦期、そのバレンツ海で米ソ両軍が一人のパイロットを巡って戦った物語である。作者のジョー・ボイヤーは軍人ではないが、軍用機エンジン製造会社で広報を担当していたようで、高速軍用機の記述は詳細を極める。本書に登場する超音速偵察機A-17は、スパイ機で有名なSR-71の後継機という設定である。ブースターを使えばマッハ5近くの速度を出し、空中給油で数日の滞空時間も確保できる。
テレマン少佐はただひとりこの機に乗り、中ソ国境で起きた紛争を偵察して帰る時、ソ連の高高度迎撃戦闘機「ファルコン」数機に追撃される。機の燃料は(給油で)数日もつにしても、パイロットはどうするのだろうと思っていたら、半自動操縦機能がある上パイロットは各種の薬剤を自動的(!)に投与され、眠ったり覚醒したりできると言うのだ。これでは人間がA-17の部品扱いではないかと思うのだが、実際の軍用機ではどうなのだろう。
銃撃で損傷を受けたA-17から、ノルウェー北端の「ノールカップ」付近で脱出したテレマン少佐を救出する命令を受けたのは、近海にいた原子力巡洋艦「ロバート・F・ケネディ」のラーキン艦長とフォルサム副長。なんとなく、宇宙巡洋艦「エンタープライズ」のカーク船長・スポック副長を思わせる。