新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

第六艦隊首席参謀の回想

 著者の井浦祥二郎元大佐は、海軍兵学校を卒業後一貫して潜水艦部隊に所属し、日米開戦時には中佐としてハワイ作戦に参加している。終戦時には第六艦隊首席参謀・大佐の地位にあった。第六艦隊とは潜水艦隊のことで、多くの船を失った帝国海軍の中でも最後まで作戦を続けた部隊である。

 

 著者は、兵学校や外軍大学校の同級生含め多くの戦友を戦中に失っている。年齢の近い人たちは当然太平洋戦争を少佐~中佐の階級で戦い、死んでいった。潜水艦長の階級がちょうど少佐~中佐だったということもある。著者は本書を戦友への鎮魂を込めて、巣鴨拘置所で書いた。戦犯容疑で収監されていたからである。

 

 重厚な戦艦、スマートな巡洋艦などと違い、潜水艦は目立たない存在だ。「ドン亀」と呼ばれて海軍の中での地位は高くない。しかし本書にもあるように、偵察・物資輸送・通商破壊・特殊作戦などさまざまな任務をこなした。表紙の絵は伊19潜が、米国の正規空母「ワスプ」を撃沈したシーンを描いたものだが、もちろん燃える敵艦の前に浮上するようなことはあり得ない。勇壮な姿というものを描けないのが、潜水艦の宿命とも言える。

 

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 日本の潜水艦の特徴は、大型で水上速力が高いこと。これは艦隊決戦に臨む主力艦隊でに随伴できることという条件から生まれたスペックである。代表的な伊15潜(同型艦26隻)の仕様を見ると、

 

 ・排水量 2,198トン

 ・水上速力 最大23.6ノット

 ・兵装 14cm砲1、25mm機銃2、魚雷発射管6、水上偵察機

 

 となっていて、戦艦(最大速力25~30ノット)に随伴し、水上偵察機で偵察ができるわけだ。この結果、英米独の潜水艦に比べると騒音が大きく、ソナー等で位置を知られやすいという欠点を持っていた。開戦初期こそそれなりの戦果を得た潜水艦隊だが、連合軍が体勢を立て直してくると、被害が増していった。

 

 当時の潜水艦は「可潜艦」であって、通常は水上航走している。ここを航空機に襲われれば非常にもろいが、日本の潜水艦には対空レーダーなどは装備されていなかった。また水上航走中に、潜んでいた潜水艦の魚雷でやられるケースも少なくなかったようだ。ワスプを撃沈した艦長木梨中佐もこの手でやられて戦死している。

 

 現代風に書き直してはあるものの、古い文体で読みづらい本ではありました。それでも「真の歴史」に触れることができたのはよかったと思います。