新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

占領憲法の矛盾

 「日本占領」最終巻には、アイケルバーガー中将が離任して帰国した後の1948年末までが描かれている。本書のかなりの部分は、マッカーサー元帥がトルーマン大統領(民主党)の二期目の選挙に対抗馬として出馬することに費やされている。元帥は共和党から立候補を目指すが、予備選で敗れ日本在勤は続いた。この時期、占領政策は全体的に順調に推移していて、白人兵と黒人兵のケンカや目に見えないソ連の諜報戦程度しか話題が無かったからだろうか。

 
 本稿では、全巻を通じての「日本国憲法」について考えてみたい。米国の占領政策の一丁目一番地は「日本の軍事力の破壊」であり、それが維持されることだった。要は二度と日本が国際社会で暴れないようにすることだった。それゆえ日本国憲法9条に、交戦権の禁止と戦力の不保持を盛り込んだ。そこまでは、当時の事情としては当然のことであったろう。しかし、「交戦権の禁止」は侵略戦争をさせないという意味でいいとして、「戦力の不保持」ではどうやって外国からの侵略を防ぐのか、占領軍の中でも矛盾だとの声が挙がっている。
 
 天皇マッカーサー元帥との会見のおり、日本の防衛はどうするのかと元帥に聞いている。天皇を尊敬していた元帥は「カリフォルニア州を守るように日本を守る」と発言したという。記録に残っているのは「米国の根本理念は日本の安全保障を確保することである。この点については十分にご安心ありたい」との発言までだが、これでも米国が、戦力を持たない日本を責任をもって防衛することを意味している。しかし、現実には第八軍を中心とする占領軍は最大で24万人、その後復員は計画的に行われるものの補充は送られてこず、家族や後方要員ばかりになって戦闘員は1万人そこそこになってしまう。

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 日本側はというと、警官はいたがほとんどが丸腰。ヤクザの方が闇市場仕入れた短機関銃(多分トンプソンM1928だろう)を持っていて手に負えない。特に密輸や密入出国が目に余るようになったので、あわてて第二復員省(帝国海軍軍人を管理)に頼んで海上保安庁を設立する。こんな状況でソ連が糸をひく共産党員たちがテロやクーデターを実行したら日本の共産化が起き、米ソの勢力圏の境は日本海ではなくサイパン沖になってしまう。
 
 日本国憲法は生まれた瞬間から矛盾を抱えていて、交戦権禁止はともかく戦力は持つべきだとの考えは憲法制定に強い影響(強制)力を振るった米国すらももっていた。マッカーサー元帥の約束「カリフォルニアのように」は、現在の在日米軍だけでは無理なことも自明である。クーデターを考えていた人たちの後輩の政党は別にして、立憲民主党他の皆さんにはこの辺をご理解いただきたいと思います。