新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

道北・道東防衛戦

 昨年「尖閣諸島沖海戦」を紹介した、中村茂樹のリアルシミュレーションの陸戦版が本書。作者は海上自衛隊潜水艦長から艦隊運用、情報分析、幹部教育、戦史などの部署を経験した人。今回の敵国はロシアである。

 

 現実に原油安やコロナ禍で大変苦しいことになっているロシア、今のプーチン政権なら本書にあるような無茶はしてこないと思うのだが、政権が不安定な大統領(例えばトランプ先生のような)に移れば、ありうるかもしれないIFである。

 

 ロシアが北方領土返還に応じないのは、一つにはオホーツク海を安全領域にしておきたいからだ。これをもっと確実にするには、道北・道東を占拠する必要がある。稚内から根室の海岸を占領すれば、ほぼ目的は達成される。米国も自国に直接の被害がなければ、日米安保を発動しないと見たロシアのニコチン大統領は、対日戦を軍部に検討させる。軍部の認識は、

 

自衛隊は侵攻の兆候を探知しても事前の準備は行えない。

・平和主義の国民の声もあって、政治家は有事に対して優柔不断。

・防衛出動が首相から出されるまでには数日~数週間ある。

・その間自衛隊は正当防衛、緊急避難行動しかできず、戦力ではない。

 

 というもの。加えて昨今の対中国で西方海域での戦闘力強化を図っているため、北海道は手薄になっている。北海道の前線部隊には十分な補給もなく、兵士も高齢化して強力な部隊ではなくなっている。

 

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 ニコチン大統領は、そこで対日戦を決意する。日本の自衛隊の反撃(ルール上はできないので演習名目などで細々としただけ)は軽微で、ロシア第五軍、太平洋艦隊、第三空軍、第98空挺師団らを投入して、目標地域は2週間で占領した。

 

 半月後、ようやく首相が防衛出動を発令、指揮を防衛大臣に一任した。防衛大臣はそれを北部方面総監部に丸投げした。これは結果として、最良の戦略となった。総監部に一元化された指揮権を背景に、陸海空の奇人変人士官があっと驚く反撃計画を練り始めるのだ。

 

 本書の後半の展開は、ちょっと日本軍に都合がよすぎると思うのだが、上陸部隊の海上補給路を断つという基本方針は正しい。時代は2020年以降と思われるのだが、残念ながらサイバー部隊は登場しない。それでも北方有事のシナリオとして、勉強になりました。