これまで何冊か「憲法改正」についての本を読み、緊急事態条項がないと困るという話を理解した。しかし発展途上国のクーデターなど見ていると「軍が議会を制圧、憲法を停止して夜間外出禁止令を布告」などということもある。緊急事態になったら日本だって「憲法停止、よって9条も停止」と出来るのではないかと思っていた。
ただとても不遜な考えにも思われて、口に出すことはなかった。しかし本書(2017年)では、佐伯啓思京都大学名誉教授が、
・GHQ占領下で日本に主権がなかった時に作られた日本国憲法に正当性はない。
・9条で戦争放棄としているが、防衛と憲法とどちらが大事かは自明。
・外国の侵略など危急の折には、憲法を停止すべし。
と主張しているのに、拍手をしてしまった。
ただ本書は「憲法廃止・停止」のための書ではない。日本人が空気のように当然と思っている「民主主義」って本当に日本に合っているのか、うまくいっているのかと疑問を投げかけるものだ。
民主主義が人類の歴史に現れたのは、古代ギリシア。「公」と「私」が対峙する形で議論がなされるが、それらを覆う形で「聖」というものが存在した。これは神でもあるし、哲学でもある。「公」は侵略者の政府(英国は今でもこの形)になり、「私」を統治した。しかしフランス革命以降「私」に主権が移り、「公」を制約するために憲法が生まれた。
しかし日本では、「公」は「私」を包含してしまい、今でも「公」は上位概念。一時期その上に「天」が存在していたが、現在ではそれも希薄になった。こんな日本に本当に民主主義があっているのかという問いかけである。文中いろいろな「主義」の比較があって、
・議会主義 公権力は市民の代表たる議会が持つ。
・共和主義 公共の事柄(特に防衛)を重視する。
・自由主義 自由な個人に主権がある。
なので、いずれも「政策決定プロセスとしての民主主義」とは相いれない部分がある。筆者は「トランプ現象」や「Brexit」を捉えて、ポピュリズムの象徴だとしながら、民主主義はポピュリズムに陥りがちだと警告する。憲法記念日、これらのことを再考してみるのもいいでしょうね。