新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

逆説とトリックの小箱

 ギルバート・キース・チェスタトンはイギリスの作家、詩人、批評家、随筆家である。1905年ころ長編ミステリー「木曜の男」を発表しているが、推理作家としての地歩を築いたのは「ブラウン神父」という、小柄でコウモリ傘に帽子とマント、丸顔であどけない神父を主人公にした一連の短編小説群によってであった。

 

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 1911年「ブラウン神父の童心」
 1914年「ブラウン神父の知恵」
 1926年「ブラウン神父の不信」
 1927年「ブラウン神父の秘密
 1935年「ブラウン神父の醜聞」
 
 の5冊が発表されていて、本書は3冊目にあたる。ブラウン神父はカトリックの布教者であり、イギリスだけでなくアメリカにもわたって活動する。行く先々で、盗難事件、殺人事件、詐欺事件などに巻き込まれる。
 
 1編は30~40ページなのだが、最後の10ページころになると神父が逆説を吐き始める。例えば「彼らは事件と関りがなくなったからこそ、事件と関係しているのです」とか、「凶器が見つからないのは小さいからではなく大きすぎるからです」などいう。
 
 その揚げ句、意表をつく解決を示すのが神父の真骨頂である。江戸川乱歩チェスタトンはトリック創造のナンバーワンだと評しているが、確かにトリックのバリエーションは多い。呪いや亡霊など怪奇趣味でスタートした物語も、神父が逆説をつぶやきだすと合理的な解決で締めくくられる。
 
 ブラウン神父はシャーロック・ホームズのライバルの一人ではありますが、独特な味を持った不思議な探偵です。確かにトリックは秀逸なのですが、彼を支えるバイプレーヤーが固定しなかったことは残念でした。翻訳文に段落が少なく、文体も難しいので読みづらいことも問題ですね。