新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ダートムーアという荒れ地

 イギリスの小説を読んでいると、時々ダートムーアという土地の名前が出てくる。特に怪奇小説に多いような気がするが、描写を見ても陰鬱なところらしいと思っていた。それ以上は調べる気もなくて、雰囲気だけ味わっていたのだが、コナン・ドイルの「バスカヴィル家の犬」を読むにあたり、場所くらいは知っておこうという気になった。

 

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 コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズものの長編を4つ書いた。その3作目で一番評価が高いのが本書である。巨大な犬の化け物に先祖を食い殺されたという伝説を持つ、ダートムーアの資産家チャールズ・バスカヴィル卿が変死し、死体の傍らに巨大な犬の足跡が残っていた。
 
 チャールズ卿の親類は少なく、カナダに住む甥ヘンリー・バスカヴィルが爵位と資産、邸宅を継承するべくイギリスに帰ってくる。チャールズ卿の死の真相を調べ、ヘンリー卿が同じような目に合わないよう守ることが、今回のホームズ&ワトソンへの依頼だった。まずロンドンに滞在したヘンリー卿だが、早くも身辺に不審なことが頻発する。ホームズは尾行者を見つけて逆に追跡するが、まかれてしまう。
 
 ヘンリー卿がいよいよダートムーアに向かう時、ホームズは別件でロンドンを離れられないと、ワトソンにヘンリー卿の警護を委ねる。ワトソン博士は、ダートムーアでヘンリー卿を守って孤軍奮闘することになる。
 
 ダートムーアはイングランドの南西部、海に近いのだが海岸ではなく花崗岩でできた高地で、600平方キロを越える広大なエリアである。高地ゆえ、夏でも気温が20度を越えず、海岸が近いからか冬でも1度を下回らない。花崗岩の上に、水たまりや泥沼が点在しているので、耕作には適さず民家もまばらだ。現在は、広大な国立公園になっている。ここは本書にあるように、犬の遠吠えが聞こえたり、霧の中から化け物のような犬が飛び出してきたりする雰囲気がある。
 
 探偵小説として、特にホームズの活躍/解決が目立つわけではないが、本書はホームズが登場する怪奇ミステリーとして読めば今でも評価に耐える作品だと思いました。