新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

惑星タイタンのナメクジ

 「宇宙の戦士」などのSF作品で有名なロバート・A・ハインラインは、5年間海軍士官として駆逐艦などに乗り組んでいた。しかし第二次世界大戦を前に病気を得てエンジニアリングの世界に転じ、大戦中はレーダー関係の技術者として「カミカゼ」の検知技術向上に貢献したという。

 

 戦中からSF作品をぽつりぽつり発表していた彼だが、1951年の本書でブレークした。その後、年間2~3の長編SFを発表している。第二次世界大戦は科学技術の発展と共に市民も巻き込んだ悲惨な戦争の現実を赤裸々にした意味で、SF作家に大きな影響を与えた。

 

 本書の舞台は2007年、地球に土星の惑星タイタンに住むナメクジ状の宇宙人が空飛ぶ円盤で侵攻してきたという設定で始まる。アリゾナ州デ・モイン周辺に飛来物があり、街の様子がおかしくなった。現地に向かった捜査官は全て連絡を絶った。米国政府の秘密捜査官サムは、組織の長であるおやじと謎の美女メアリの3人で現地に向かう。

 

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 それが彼らとナメクジたちとの長い戦いの始まりだった。ナメクジは人間に取り付くとそれを支配してしまう寄生生物で、宿主となる個体が他にもいれば分裂してそちらにも取り付く。捜査の過程でサムも取り付かれてしまうが、仲間たちに救われる。

 

 取り付かれて異星人の支配下にある人間と、普通の人間の違いは小さなナメクジをどこかにくっつけているか否かの違いである。しかも引きはがし方によっては、寄生されていた人間も死の危機に見舞われる。目に見えるという点を除けば、伝染病のウィルスのような存在である。

 

 異星人の円盤は世界中に降ってきて、異星人と人類の全面戦争が始まる。徐々に異星人の弱点も分かってきたのだが、宿主の人間に大きな気概を加えることなくナメクジだけを除去する手段はあるのか・・・。

 

 第二次世界大戦直後という発表時期ゆえ、原子爆弾も登場する。さらに空飛ぶ車、時間を伸び縮みさせる薬(?)、光線銃や熱線銃などSFらしい小道具も出てくる。なんとなく今世界を騒がせている新型コロナウィルスを思わせるのだが、ナメクジの方が理性を持っているだけ厄介とも言える。

 

 SFのなかでも地球外生命体の侵略ものの古典ともいうべき作品、初めて読みました。なかなか読ませましたね。さすが大家です。