新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

誘拐という重犯罪

 ウィリアム・P・マッギヴァーンは第二次世界大戦後にデビューし、1ダースあまりの警察小説を書いた。そのうちのいくつかは映画化されている。本書は彼の代表作のひとつで、マンハッタンを舞台に富豪の孫娘の誘拐事件に挑むFBIの捜査を描いたものだ。

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 1956年の発表で、似たテーマのエド・マクベイン「キングの身代金」(黒澤明監督「天国と地獄」の原作)より3年早い。「キングの身代金」が87分署の刑事チームの活躍を主題としたのに比べ、本書はFBIの活躍よりも誘拐犯たちの策略や葛藤により多くのページを割いている。
 
 富豪ブラッドリー家の息子ディックとエリー夫妻はようやく授かった一人娘ジルを溺愛している。若い保母を雇って24時間ケアをさせるほどだ。この幼女誘拐を企むのは、前科者グラントとデューク、クリーシーとグラントの情婦ベルの4人。
 
 彼らはブラッドリー家に狙いをつけ、クリーシーが同家を見張れるところに部屋を借り、デュークが電話工事人を装って家の中を偵察する。人質を隠す場所として、デュークの弟ハンクの釣り用のコテージも確保した。
 
 周到に見えた彼らの犯行計画だが、現実同様不測の事態が起きる。まず旅に出るはずだったハンクが旅行がキャンセルになってコテージに来てしまう。犯人グループはハンクを取り押さえたものの最初からお荷物を抱え込むことになる。さらに誘拐しようと忍び込んだデュークが保母に気づかれてしまい、幼児・保母ともども連れ去る羽目になってお荷物は2つ。
 
 60年前の話だが、FBIのチームワークと科学捜査がリアルに描かれ古さを感じさせない。犯人グループはまんまと20万ドル(使用済み$20以下の紙幣)をせしめるのだが、その間にFBIは着々と犯人グループの正体や潜伏場所を割り出しつつあった。グラントたちが「捕まれば即死刑だ」とつぶやくシーンが再三出てくる。誘拐は日本では殺人よりは重い犯罪ではないが、ここでは謀殺以上の重犯罪らしい。
 
 他にも「悪徳警官」などの著作があり、ワルと警察の実像を描くことが巧みな作者である。最近書店では見ることが少なくなりましたが、久し振りに読んでその迫力を堪能しました。