本書は海上自衛隊護衛艦艦長、幹部学校教官、護衛隊司令、総監部防衛部長などを歴任した渡邉直が、ミリタリーマガジンの携帯サイトに連載していた「南海の虎ー小説海賊物語」を文庫出版したものである。時代は20xx年となっているが、登場する艦艇から見て2025~2030年頃の近未来を想定しているようだ。
今も護衛艦「たかなみ」がアラビア海北部やオマーン湾で情報収集任務にあたっているが、海上自衛隊が日本近海のみで活動する時代は終わったと言っていい。アラビア海から日本までの原油シーレーンをはじめとして、日本経済の生命線を米国海軍らに任せきっておける状況ではないのだ。
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ソマリア沖や本書の舞台であるマラッカ海峡は、海賊が跳梁する海として知られていて、これらの海域を海上自衛隊が警戒にあたることは十分に可能性のあることだ。主人公の亀山二佐は「ふゆづき」艦長、防大出の38歳で合気道四段の猛者である。
彼は、防衛省海幕の法案作成担当者だったころに「マラッカ海峡及びその周辺海域の安全に関する特別措置法」を起草したように、この海域での海上自衛隊の責務を十分理解していた。その海域に自らが艦長として、心を通じた数名の猛者たちを引き連れて乗り込んできたわけだ。
もうひとり(?)の主人公である護衛艦「ふゆづき」は、今アラビア海にいる「たかなみ」の後継艦として配備された最新鋭護衛艦である。
◆護衛艦「ふゆづき」 DD-119
・基準排水量 5,000トン
・推進力 ガスタービン、70,000馬力、速力32ノット
・兵装 127mm単装砲、対地対艦ミサイルSSM、
対空対潜ミサイルVLS、魚雷発射管×6、
20mm機関砲(CIWS?)×2、
が標準装備だが、近接戦闘がおおくなるであろう海賊狩りのために13mm機銃が4基増設されている。ペナン島の仮設司令部に到着した「ふゆづき」と亀山艦長以下のクルーは、日本の自動車運搬船を乗っ取った海賊を逮捕するなど活躍し、海賊組織から「南海の虎」とあだ名されるようになる。