新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

海上保安庁の責務

 「海猿」というアニメがあって、本書(2009年)に先立つ2002年のTVドラマに、その後映画にもなり人気を博した。これで極めて地味だった官庁「海上保安庁」の存在や意義を、多くの国民が知ることになったと、知り合いの国交省の人は言う。

 

 その後、能登沖の北朝鮮工作船との銃撃戦や尖閣諸島をめぐる緊張など、海上保安庁のことが報じられる機会も増えてきた。本書は21世紀の日本の海の防衛を真正面からとらえた力作である。作者は中国関係が専門のジャーナリスト、中国の海洋進出を取材するうち日本の海上の警戒態勢や防衛力(含む海上自衛隊)に興味を持ち、雑誌「諸君!」に連載したものが本書の基になった。

 

 日本は海洋大国である。国土の面積は61番目ながら、領海+排他的経済水域の面積では6位、同じく体積(海の深さを考慮したもの)では世界で4番目の大国に躍り出る。また海岸線が複雑に入り組んでいて、国土面積当たりの海岸線の長さでは世界一の国である。この広い領海+排他的経済水域や海岸線を見張るというのが海上保安庁の任務なのだ。

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 本書発表のころ、中国はそれまで政府内でバラバラだった海上警備部門の統合化を図っている。国土資源部(部は日本の省に相当)のもとに、国家海洋・公安・税関密輸取締・漁業の4部門をまとめて「海警局」とした。

 

 韓国も「海洋警察庁」の急速な拡充を図っていて、要員の数は日本の海上保安庁とほぼ同じ。海岸線の長さでは、日本の1/9というのにである。現在休戦中の北朝鮮との間の警備というよりは、中国もあるかもしれないが「主敵」は日本と考えての増強と考えるべきだろう。現実に昨年は北朝鮮の船と邂逅していた韓国艦船から自衛隊偵察機が「レーダー照射」を受けているのだから。

 

 本書では日本近海だけでなく、アラビア海の海賊や南氷洋での反捕鯨団体の暴挙なども取り上げ、これからの日本の「海防」を論じている。特に後者(例:シーシェパード)は、環境団体の名を借りたテロリストだと断じている。

 

 本書発表後も、状況は厳しさを増していると思う。唯一台湾が「反日」だとあるのが、現政権では緩和されていることくらいが救いだ。「平成」から「令和」に時代が変わっての海防論、作者には続編を書いてもらいたいですね。