本書は「日本軍の小失敗の研究」の続編、1996年に発表されたものだ。著者三野正洋は技術者でありながら、本書には「未来を見すえる太平洋戦争文化人類学」と副題を付けている。日本軍が合理的でない思考をしていたことは前編でも何度も指摘されているが、本書ではより具体的に示されている。例えば歩兵操典には、
1)歩兵は主力だから他兵種と協同しなくても戦闘せよ。
2)歩兵の本領は突撃による敵のせん滅。
3)戦闘の決定は銃剣突撃。
4)歩兵は敵の行動・情報・自らの兵站にかかわらず積極的に行動。
という主旨のことがあって、特に4項にいたっては呆れるほかない。どこに情報や兵站なしに突撃する軍隊がいるというのか?さらに「生きて虜囚の辱めを受けず」と捕虜になることを禁じているのだから、将兵に「死んで来い」と言っているようなものだ。
日露戦争までは合理的な思考を持ち、合理的な戦い方をしていた日本軍だが、いつのころからか上記のように狂った道に迷い込んでいる。恐らくは国力を越えた戦線の拡大が軍を相対的に貧しくし、「赤紙一枚で集められる歩兵」にしわ寄せが来たのだろう。中国東北部でソ連軍と対峙し、中国奥地迄侵攻して国民党・共産党軍と戦い、インドシナにも進駐したあげく太平洋で英米と戦う準備をするのだから、歩兵を支援する兵種(機甲、砲兵、航空)を充実させたり、機動力や医療・健康管理などのサポートにカネをかけられるはずもない。
士気の低い中国兵が相手ならともかく、機甲や砲兵の強いソ連にはノモンハンで痛い目に遭っていたし、自動火器が豊富な米軍相手ではこのような「歩兵操典」で闘えるはずはなかった。結局「バンザイ突撃」で徒に死者を増やしただけに終わる。
本書の最後に「自衛隊の小失敗の研究」を書かなくてもいいようにと、6つのアドバイスを自衛隊に送っている。
・多用途に使える装甲兵員輸送車の増強
・あらゆる分野で「予備」が不足、人も兵器も補給も
・海上護衛戦の訓練をせよ
・海上保安庁と海自の連携に不安
・空中給油機の開発と配備、運用
・情報公開と存在意義の主張を積極的に
旧軍の反省を踏まえて、ある程度の合理性は身に着けた自衛隊だが、憲法との絡みもあって上記の欠陥が見られるという。海上保安庁との連携の項目などは、陸軍と海軍が無連携で兵器開発を行ったことなどを想起させます。日本(軍)の思考が、もう一皮むけることを僕も期待しています。