新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

後ろから書いてゆく小説

 有名なヒッチコック監督のサスペンス・ホラー映画「サイコ」、シャワーを浴びる女性を切り刻むシーンに始まり、衝撃のラストまで「怖いもの見たさ」で見てしまった映画だった。演出はもちろんだが、子供のころにストーリーの怖ろしたをしっかり味わった記憶がある。

 

 その「サイコ」の原作者が、ロバート・ブロック。短編中心に作家活動を続けた人で、「サイコ」に勝るとも劣らぬホラー短編集が本書である。13編の短編の長さはバラバラ、10ページのショートショートとも言うべきものから、50ページ近いものまである。テーマもバラバラ、異星生物・バイパイア・呪術師・ミイラ・不死の男・毒を売る男・首狩り族など本書だけで、サスペンス/SF・ホラーの多くを味わうことができる。

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 その発想そのものは、作者が子供のころから好きだったラブクラフトの諸作と似ているのだが、ブロックらしいのは「最後の一行」の使い方である。

 

 ・・・「終身刑とする」と裁判官は言った。

 ・・・怪物がロサンゼルスを破壊したのは。

 ・・・かぶと虫の群れが・・・枕の上を渡っていくのを。

 ・・・ピンナップのように壁にくぎ付けにしたのを。

 

 こららの言葉は、単独で聞けば特段気にするようなものではない。それでも10ページ以上の異常な物語を経た読者が読むと、愕然とするかもしれない。僕が見るところ、この作者は「物語を後ろから書いている」ように思う。最後の言葉を選び、それが最大に効果をもたらすようなストーリーを逆方向から書いていくのだ。

 

 ミステリーも本来は結果から書いていくのが正しいと僕は思っていて、作者のスタンスには敬意を表する。新聞や雑誌の連載を単行本化するような場合には、この方法は使えない。本書の短編の長さを見ていると、連載などしていたはずもない。

 

 僕はホラーは好きではないのだが、ミステリーの本質に近い書き方をしているロバート・ブロックの作品。寡作と聞いているのですが、もう少し探してみましょう。