新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

信用情報機関の信用

 僕はコンピュータサイエンスを学んでコンピュータを作る仕事をしていたのだが、30歳そこそこでコンピュータを使ってもらう場面をどうやって増やすかということに興味を持った。当時デジタル化が遅れていた分野(例:農業・林業・行政)に働きかける方法もあったのだが、僕はデジタル化が進んでいた分野をもっと進める方に手を付けた。

 

 進んでいる分野はやはり金融、銀行オンラインは長い歴史があるし、ATMに代表される関連機器も随分買ってもらっていた。しかしこれらは現場の合理化に過ぎない。金融業の中核にデジタル活用を導入できないか考えるうち、金融業の本質とは何かの疑問に答えなくてはならなくなった。例えば銀行業の本質は、決して紙幣やビール券のようなペーパーハンドリングではなく、融資と回収だということだ。

 

 折から「金融Big-Bang」という流れがあり、そこに首を突っ込んで勉強し始めた。そんな時出会ったのが本書。それまで「格付け」というものについて考えたことはあまりなく、何故存在するのか理解できていなかった。米国の拝金主義の手先かという気もしていた。

 

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 本書にいう「格付け」とは、主に債券のデフォルト可能性のこと。これがないと、利回りの良い債券だけがもてはやされるため、利率だけの争いになる。他の業界でもそうだが、バカにいい利率にはウラがある。「悪貨が良貨を駆逐する」ことになるのだ。利率にデフォルト率を掛け合わせて二次元評価にすれば、ハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンかを利用者は選べるようになる。

 

 それはいいのだが、問題は「誰がどうやって格付けするか」にある。有名なムーディーズはダン・アンド・ブラッドストリート(信用調査会社)、S&Pマグローヒル(出版社)の100%子会社である。米国に比べて出遅れ感のある日本の格付け機関については3つの民族系機関があるが、いずれも下記の問題を抱えていると本書にある。

 

・銀行や証券会社など利害関係者が株主にいる

・債券の発行者だけが費用負担をしている

 

 この種の情報発信者には、中立性・独立性が求められることは言うまでもあるまい。僕はしばらく金融業界での「信用」というものを勉強したので、他の分野の格付け(IT導入の進んだ企業、サイバーセキュリティ技術者の能力等)にも生かせるかなと思っているところです。