新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

小さくとも光る国

 まだ20世紀だったころ、米ソ両大国の狭間にあった日本について、ある政治家が「小さくともキラリと光る国」でありたいと言った。当時の日本人はまだ日本が「小国」だと思っていたのだが、人口1億人を超えていたのだから当時から「大国」の素質はあったのだ。

 

 本当に「小さくとも光る」といえば、本書(2018年発表)に挙げられたイスラエルが該当するだろう。人口は今でも1,000万人に届かないが、軍事大国であり、国際政治の中で十分な存在感を示している。加えて本書にあるように、産業のイノベーション力が非常に高い。特にデジタル経済においては、他国を圧する力を持っている。

 

 米国や中国の「巨大IT」は、ほぼ「BtoC」型の事業者だが、イスラエルが次々に生み出すデジタル分野のスタートアップは「BtoB」型が多いから、次世代では米国・中国をしのぐ巨大企業を輩出する可能性は十分にある。

 

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 バラエティ豊かなスタートアップ企業を生む背景は、軍隊である。子供の頃から数学やデジタル技術に長けた人物を軍がリクルートし、サイバー空間での戦闘などで使う。若いうちに退役させて、ビジネスを興させるのだ。軍事組織とサイバー空間しか知らない青年を、ビジネスマンに育てる支援体制も充実している。

 

 イスラエルの市場などに囚われず、スタートアップ企業は世界市場を目指す。それらと手を組もうとするのは、ドイツや中国だと本書にある。著者熊谷徹氏は在ドイツのジャーナリスト、ドイツの事情やドイツとイスラエルの関係についての記述も多い。

 

・ドイツはモノ作りは得意だが、デジタル分野では立ち遅れている。

・だから「Industrie4.0」構想を打ち上げたが、単独では実現困難。

・パートナーとして、米国西海岸よりイスラエル(中東のシリコンバレー)が近い。

・西ドイツ時代から、ナチスの犯罪を謝しイスラエルとの関係修復を図った。

 

 とある。一方の中国も、毛沢東時代はパレスチナとの関係が密でイスラエルを敵視していたが、鄧小平以降関係を改善している。ドイツも中国もイスラエルと言う国の地政学的課題(パレスチナ問題等)は承知しながら、そのイノベーション力を買って急接近していると著者はいう。

 

 僕自身2018年にはイスラエルで、関係機関を訪問しました。本書に書かれていることは素直に納得できます。ただ、3年後の今中国は「毛沢東時代」に戻りかけていますがね。