新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

第三次計算機革命

 日本でも量子技術に関する研究を、官民連携で進めようとする協議会が設立されるという。米中対立は科学技術分野でも激しさを増していて、宇宙・通信・エネルギーなどの分野での先陣争いが急だ。その中でも次世代のコンピュータとされる量子コンピュータ分野には、両国はじめ熱い視線が注がれている。民生技術と軍事技術の区別がほとんど無くなった今、量子コンピュータは大国の安全保障をも脅かす「怪物」になろうとしている。

 

 僕自身は大学時代に「量子工学」の講義は受けたが、内容は全く覚えていない。ましてや今の技術についての知識はゼロだ。そこで何か簡単な参考書はないかと探して、見つけたのが本書(2015年発表)。著者の竹内薫氏はサイエンス系のライター(理学博士)である。

 

 本書は古代からの数学を振り返り、指数・対数・行列などの解説をしながら、コンピュータの概念や試作、歴史を解説している。今のノイマン型コンピュータのハード/ソフト構造まで、分かりやすく示している。そして「暗号」についても1章を割き古代の暗号、ナバホ族の通信、エニグマなども紹介している。加えて量子理論の入り口を説明するまでで、紙幅の3/4を使った。

 

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 僕が知りたいのはその後、量子コンピュータって一体何か、どうして演算が速いのか、何に使えるのかということだ。ポイントは、

 

1)量子は光や波動の類の最小単位、0と1の間の状態もあらわせる。

2)量子コンピュータは0と1の間の値もあらわせるQビットを単位として計算する。

3)演算するのはあくまで確率、Qビット単位で並行処理が可能。

 

 ということ。初期の計算機たる計算尺などはアナログ演算もできたが、第二世代計算機であるノイマン型コンピュータは、0&1のデジタルで逐次演算をする。確かに速いのだが、複雑な問題を与えられると「しらみつぶし」に演算をする羽目になるので役に立たない。例えば画像認識をして対応するようなケースでは不利だ。ハードウェアの高速化やAI技術などでカバーしているが、より複雑な問題になると量子コンピュータによる第三次計算機革命が必要だと本書にある。ただその「問題」の例として、暗号化してあったデータが簡単に解析されて盗まれるケースだけ示されていたのにはちょっとがっかりした。

 

 まあ学生時代の復習をしたと思って、今は納得しましょう。次はやはり量子コンピュータならではのキラーアプリ探しですね。