新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

東京駅の新幹線ホーム

 東京駅に東海道新幹線以外の新幹線が乗り入れたのは、いつのことだったろうか?東北新幹線上越新幹線は上野どまりだったはずだ。もちろん秋田新幹線山形新幹線北陸新幹線も。だからあまたのアリバイ崩しミステリーはあるのだが、複数の新幹線を絡めたアリバイの話はあまりなかった。しかし本書(1998年発表)の時点では、上野~東京間のJR東日本の新幹線ルートが開業して、すべての新幹線が東京始発にできるようになっている。本書の最初のページに、新幹線だけの路線図が載っている。

 

・東京~岡山

・東京~長野

・東京~新潟

・東京~山形

・東京~秋田

 

 本書では、被害者は新潟に行くと言ってなぜか姫路で殺され、その間に容疑者は秋田を往復したとアリバイを主張する。いずれの列車も東京発で、

 

・新潟行き「あさひ1号」700発

・博多行き「のぞみ3号」656発

・秋田行き「こまち11号」650発

 

 と短い間隔で並行するプラットフォームから出発する。今回伸介&美保が挑む容疑者は、被害者を巧みに操りながら自らのアリバイも用意しておく抜け目のない人物だった。

 

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 発端は横浜市の天王橋近辺に住む女子高校生が、塾帰りに刺殺されるという事件。目撃者もおらず通り魔の犯行かと思われたのだが、被害者の姉が美保の友人だったことから二人は警察より早く手がかりをつかむ。彼女はしばらく前に姫路に旅行した時、姫路城で富豪の老婦人が刺殺される場面を目撃していた。

 

 被害者は襲われる直前に銀行預金をすべて解約、2億4,000万円の現金にして信頼している銀行員に自宅へ運ばせたらしい。そのカネを巡って一人の容疑者が浮かぶのだが、姫路の事件当時、秋田に行っていたとのアリバイを主張する。元々旅好きというこの男、妻を亡くしてからふらりと列車そのものに乗る旅をする「鉄道ヲタク」。その日もわずか40分秋田にいただけで東京にとんぼ返りしている。

 

 例によって複数のアリバイトリックの組み合わせだが、本書はそれよりも事件背景に興味がわいた。夫を亡くし金貸し業を止めた被害者は、強欲な甥たち以外の親族がなく豪華な「ケアマンション」探しをして罠にかかる。犯人の方も妻を亡くして一人暮らし、まじめな生活が一転凶悪な犯行に走る。

 

 現代社会の暗部を切り取って見せるのも津村秀介の得意なこと、このシリーズの一面ですよね。