新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

温故知新の政治学

 昨日、竹中教授の平成時代を俯瞰した書を紹介したが、本書も平成時代を総括したものである。「サンデープロジェクト」や「朝まで生TV」の司会でお馴染みのジャーナリスト田原総一朗氏と「ミカドの肖像」などで知られ元東京都知事でもある作家の猪瀬直樹氏の対談で出来上がったのが本書(2018年発表)である。

 

 東西冷戦が終わり世界秩序が変り始めたのが、平成の始まりと重なる。米国の敵だったソ連が消え、米国は次の敵をGDP2位の国日本と定め、経済戦争を仕掛けてきたと本書にある。それまで日米安保にただ乗りして経済を強くした日本に、応分の負担をさせながら、製造業では勝てないので為替操作を含む金融分野で圧力をかけたのだという。

 

 昨日の竹中教授の書は、政治の中心にもあった著者だが、基本的には経済の話。本書の視点はどうしても政治に拠る。「サンプロ」は司会者が一番意見を言う珍しい番組で、実際の政治にも影響を与えた。例えば橋本総理は「サンプロ」での発言がもとで失脚する。与野党の政治家はもちろん、注目の人物を幅広く呼んだ番組で、オウムの麻原代表まで「出演」した。

 

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 本書の中で一番紙幅を割いているのが政治家と官僚の暗闘、「官僚主権の国」をどのように民主国家にするかとした政治家たちとそれを後押ししたジャーナリストの話が連綿とつづられている。昭和の時代は官僚出身の総理大臣が多かったが、平成では(二世を含めて)官僚経験のない総理が多くなった。代表的なのが小泉総理、郵政民営化のワンイシューで総選挙をやるという「暴挙」に出た時の裏話もあった。

 

 面白かったのは現上皇の誕生日である12/23は、マッカーサーA級戦犯らを処刑した日だという話。米国は次の天皇の誕生日は戦犯の処刑記念日として、日本国民は祝意も半分になるように仕掛けたのだが、昭和が長すぎて日本国民は戦犯処刑のことなど忘れてしまった。米国の「陰謀」は空振りに終わったわけだ。国家間の「陰謀」というのはこういう仕掛けをするのかと感心した。最終章の「皇室論」は、天皇は「虚飾」なのだけれども、日本にとって必要な「飾り」としている。それが決して不遜に聞こえないのが、お二人の凄いところだ。

 

 平成の最初と今でも、日本の政治課題は共通するところが多いです。政治の「温故知新」、勉強になりました。